BRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有する女性は、乳がんの発症リスクが高いことが知られている。しかし、40万人以上の英国成人を対象にした新たな大規模研究で、そのリスクは考えられているほど高くはなく、特に、近親者に乳がん患者がいない女性では大幅に下がる可能性が示唆された。英エクセター大学ゲノム医療分野のLeigh Jackson氏らによるこの研究結果は、「eClinicalMedicine」に9月14日掲載された。
BRCA1/2遺伝子変異が乳がんと卵巣がんの発症リスクを高めることは、以前より知られている。米疾病対策センター(CDC)は、BRCA1/2遺伝子変異を持つ女性の半数が70歳までに乳がんを発症するとし、また、米国がん協会(ACS)は、BRCA1/2遺伝子変異を持つ女性の最大70%が80歳までに乳がんを発症するとしている。さらに、個々の研究からは、BRCA1/2遺伝子変異を持つ女性の85%が70歳までに乳がんを発症する可能性が示されている。このようなリスクの高さから、米国では、BRCA1/2遺伝子変異保持者の半数近くが予防的乳房切除術を受け、また一部の女性はエストロゲンの作用を抑える薬物治療を選択するという。
今回の研究では、エクソームシーケンシングデータと医療記録のそろうUKバイオバンク参加者45万4,712人(女性24万6,591人)のデータを用いて、BRCA1/2遺伝子変異の浸透率(何らかの遺伝子変異の保持者に対象疾患が生じる確率)を調べるとともに、乳がんの家族歴(第一度近親者)が乳がんの発症リスクに及ぼす影響について検討した。対象者のうち、BRCA1遺伝子変異保持者は230人、BRCA2遺伝子変異保持者は611人であり、BRCA1遺伝子変異保持者の78人、BRCA2遺伝子変異保持者の170人は、乳がんの家族歴を持っていた。
解析の結果、BRCA1/2遺伝子変異保持者での乳がんの発症リスクは非保持者よりも高く、特に、家族歴を有する場合に顕著に高まることが明らかになった(BRCA1遺伝子変異保持者の乳がん発症の相対リスクは、家族歴のある場合とない場合とで、それぞれ10.3と7.2、同様に、BRCA2遺伝子変異保持者の同リスクは、それぞれ7.8と4.7)。60歳時点のBRCA1/2遺伝子変異の浸透率は、家族歴を有する場合にはBRCA1遺伝子変異保持者で44.7%、BRCA2遺伝子変異保持者で24.1%、家族歴のない場合には同順で22.8%と17.9%であった。
平均的な米国人女性の乳がん発症率が約13%であることを考えると、この研究で示されたBRCA1/2遺伝子変異保持者の乳がん発症リスクが平均より高いことに変わりはないが、過去の研究で示されたリスクよりは大幅に低かった。このような大きな差はなぜ生じたのだろうか。Jackson氏は、研究対象の違いが原因である可能性を示し、「過去の研究では概して、早期乳がんの濃厚な家族歴を有するためにBRCA遺伝子検査を受けるような、乳がんリスクが特に高い人に焦点を当てていた。それに対して今回の研究では、英国の中高年成人約50万人から遺伝情報と健康情報を収集した巨大研究プロジェクトであるUKバイオバンクのデータを利用した点が異なる」と説明している。
専門家らは、この研究結果は、女性が自分の乳がんリスクについてより現実的な見方をするのに役立つ可能性があると話している。そして、今や自宅でDNA検査を行うことも可能だが、この研究で得られた結果は、そのプロセスにおいて医療専門家に相談することの重要性を強調するものだと主張する。Jackson氏は、「担当の臨床チームに相談し、家族歴の有無に照らし合わせた自分の乳がんリスクプロファイルについて話し合うべきだ。そうすることで、より多くの情報に基づきケアを選択することが可能になる」と助言している。
[2023年9月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら