2型糖尿病患者が、長期的な使用が前提とされている血糖降下薬のメトホルミンの服用を早期に中止すると、加齢に伴い、思考力や記憶力に問題の生じるリスクが高まる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。論文の上席著者である、米ボストン大学の疫学者Sarah Ackley氏は、「メトホルミンの服用を続けることが、認知症発症の予防や遅延につながることが分かった。これは大きな励みとなる結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「JAMA Network Open」に10月25日掲載された。
Ackley氏によると、メトホルミンには幅広い効能があるため、通常、糖尿病治療の第一選択肢とされており、特定の理由がない限り服用を継続することが推奨されている。メトホルミンの服用により腎障害などの副作用が生じた患者や、薬に頼らない血糖コントロールを希望する患者では、メトホルミンの服用が中止されることがある。
今回の研究では、米カイザーパーマネンテ北カリフォルニアのサービス利用者から抽出した2型糖尿病患者4万1,346人を対象に、腎障害を理由としないメトホルミンの服用中止と認知症の発症との関連が検討された。対象者はいずれも1955年以前の出生で、メトホルミンの服用開始時に腎臓病の診断歴はなかった。認知症発症については、電子健康記録が導入された1996年から2020年まで追跡された。対象者のうち、1万2,220人(メトホルミン服用開始時の平均年齢59.4歳、女性46.2%)はメトホルミンの服用を途中で中止し(服用中止群)、残りの2万9,126人(同61.1歳、46.6%)は服用を継続していた(服用継続群)。
解析の結果、服用中止群では服用継続群に比べて認知症の発症リスクが21%高いことが明らかになった(ハザード比1.21、95%信頼区間1.12〜1.30)。媒介分析で、この関連性にHbA1c値やインスリン使用の変化が及ぼす影響を検討したところ、有意な影響は確認されなかった。
メトホルミンの服用中止後の血糖値の上昇やインスリンの使用増加が認知症の発症に影響を及ぼさない可能性が示された点について、論文の筆頭著者である米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の疫学者Scott Zimmerman氏は、「メトホルミンの血糖降下作用以外の他の作用が、認知症の発症予防に関与している可能性が高い。この洞察は、今後の研究において、効果的な介入策や予防策を特定する際に役立つだろう」と述べている。
Zimmerman氏は、メトホルミンを服用中だがその中止を考えている人は、まずは主治医に相談するべきだと助言する。同氏は、「患者ごとに、認知症の発症リスクやメトホルミンの副作用の程度、患者の希望などの多くの要素を考慮してバランスを取る必要がある。糖尿病合併症の予防だけでなく、メトホルミンの利点も、検討材料の一つだ」と説明している。
米アルツハイマー病創薬財団の加齢・アルツハイマー病予防部長を務めているYuko Hara氏は、「この結果は、メトホルミンが認知症の発症リスクを低下させることを示唆する既存の研究報告と一致している」と話す。同氏は、「2型糖尿病とアルツハイマー病には、脳へのグルコース取り込み障害など共通の特徴がいくつかある。加えて、両疾患ともインスリン抵抗性と高レベルの酸化ストレスに関連している。したがって、2型糖尿病患者は、メトホルミンやその他の糖尿病治療薬で血糖値をコントロールし、生活習慣を是正することで、認知症の発症リスクを低減させられる可能性がある」と話している。
一方、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校糖尿病ケアセンター所長のJohn Buse氏は、「メトホルミンの服用を中止することで認知症の発症リスクが高まると結論付けるには時期尚早だ」との見方を示す。同氏は、メトホルミンが、記憶力や思考力の低下をもたらすビタミンB12の濃度低下を招いている可能性など、今回の結果をもたらした要因が他にもある可能性を指摘。「この研究結果は、掘り下げて検討する価値はあるものの、メトホルミンの服用中止が悪い考えであることを明示するものでないことは確かだ。メトホルミンが現存する薬物の中で最も有効で安全な薬物であることは明らかであり、腎臓の問題などメトホルミンの服用を中止すべき正当な理由がないのであれば、使用を継続すべきだ」と強調している。
[2023年10月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら