好きな音楽を聴くと痛みが和らぐ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。これまでにも、音楽が鎮痛薬の代わりになる可能性については研究されてきたが、今回、音楽を聴いているときの感情的反応が痛みの緩和に大きな役割を果たすことが示されたという。マギル大学(カナダ)のDarius Valevicius氏らによるこの研究の詳細は、「Frontiers in Pain Research」に10月25日掲載された。
今回の研究は、同大学のRoy Pain Labで実施され、健康対象者63人(平均年齢21.3±2.1歳、女性49人)を対象に、痛みを緩和する効果が最も高い音楽の種類が検討された。対象者の前腕の内側に中等度の痛みを伴う熱刺激を与え、熱いティーカップを皮膚に当てたような感覚を生じさせた。対象者はこの熱刺激を受けながら、異なる種類の音楽を約7分間ずつ聴いた。音楽の種類は、対象者自身が選んだ好きな音楽、リラックス音楽、これらの音楽のスクランブル版(曲を細分化し、それをランダムにシャッフルした音楽で、好きな音楽とリラックス音楽の対照として使用)、およびサイレント(無音)とした。対象者の痛みの強度および不快感は、ビジュアルアナログスケールを用いて評価した。
その結果、好きな音楽を聴くことにより、対照音楽やサイレントの場合と比べて、痛みの強度と不快感が明らかに軽減されることが判明した。一方、リラックス音楽の場合は、好きな音楽と同様の効果は得られなかった。Valevicius氏はジャーナルのニュースリリースで、「自ら選んだ好みの音楽は、聴き慣れないリラックス音楽よりも、急性の熱性疼痛の軽減にはるかに大きな効果があった。スクランブル版は、元の音楽とは意味構造が異なるのみである。したがって、痛みが緩和されたのは、単に注意がそらされたことや音刺激が存在するためではないだろう」と説明している。
また、今回の研究では、対象者が選んだ好きな音楽に関する面接調査が行われた。面接内容のテーマの分析から、好きな音楽による対象者の感情的反応として、元気が出る/活動的な、楽しい/陽気な、落ち着く/リラックスする、感動的な/甘く切ない、という4つのテーマが抽出された。
テーマごとに検討したところ、感動的な/甘く切ない感情を抱かせる音楽は、痛みの不快感を低下させており、これは、音楽の楽しみとチル(chill;ぞくぞく感、ざわざわする感覚などとされる)の増加によることが示唆された。著者らは、「チルは、人によっては、うずくような感じ、震え、鳥肌として現れることがある。音楽におけるチルについては完全には解明されていないが、痛みのシグナルを効果的に遮断する神経生理学的プロセスを示唆している可能性がある」としている。
著者らは、本研究の限界の一つとして、音楽を聴く時間が制限されていたことを指摘している。リラックス音楽をもっと長く聴けば、より強い鎮痛効果が得られる可能性もあるという。著者らはまた、「機械的刺激や慢性疼痛など、他の刺激でも同様の効果が現れるかどうかを研究することも重要だ」と付け加えている。
[2023年10月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら