関節リウマチ(RA)に対する治療薬の中では比較的新しいJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬は、その効果を疑問視する声があったものの、実臨床下において全般的に大きな効果を上げていることが、新たな研究で明らかになった。JAK阻害薬は、体内での炎症に関わっているサイトカインの細胞内伝達に必要な酵素であるJAKの働きを阻害することで炎症を制御する内服薬。神戸大学医学部附属病院の林申也氏らによるこの研究結果は、「Rheumatology」に11月1日掲載された。
RAは、免疫系が体内の関節組織を誤って攻撃することにより引き起こされる自己免疫疾患で、関節の痛み、腫れ、こわばりなどを引き起こす。炎症が全身に広がると、時間の経過とともに、心臓、肺、皮膚、目など、体の他の部位にも問題が生じる可能性がある。RA治療薬の多くは、免疫反応の一部を標的とすることで関節障害の進行を遅らせる。JAK阻害薬もそのような治療薬の一つだ。しかし、本研究には関与していない、米Rheumatology AssociatesのStanley Cohen氏は、「JAK阻害薬は、RA治療の第一選択肢とは考えられていない」と言う。
その理由としてCohen氏は、2021年に実施された試験に言及する。高血圧や糖尿病といった心疾患や脳卒中のリスク因子を一つ以上有する50歳以上のRA患者を対象にしたこの試験では、JAK阻害薬のトファシチニブを投与された患者では、TNF(腫瘍壊死因子)阻害薬を投与された患者に比べて心筋梗塞や脳卒中、特定のがんの発症リスクの高いことが示された。この結果を受けて米食品医薬品局(FDA)は、RA治療に使われる全てのJAK阻害薬に枠組み警告を追加するとともに、医師に対して、1種類以上のTNF阻害薬が奏効しなかった患者に対してのみJAK阻害薬の処方を検討するよう求めた。
林氏らは今回、622人の成人RA患者を対象に、JAK阻害薬のトファシチニブ、バリシチニブ、ペフィシチニブ、ウパダシチニブの有効性と安全性を実臨床下で比較した。治療の前後に、clinical disease activity index(CDAI、臨床疾患活動性指標)と修正版Health Assessment Questionnaire(mHAQ)で評価を行い、炎症反応マーカーとされるC反応性蛋白(CRP)レベルを測定し、治療開始から6カ月時点でのCDAIでの寛解または低疾患活動性率(low disease activity;LDA)を比較した。
その結果、治療開始後6カ月間での全体での治療継続率は85.4%であり、それぞれのJAK阻害薬による治療を受けた患者間で継続率に有意な差は認められなかった。また、治療6カ月目までに投薬により生じた有害事象や投薬の効果が得られないことを理由に治療を中止した患者の割合についても、4群間で有意な差はなかった。
治療開始後6カ月時点で、およそ3分の1の患者がRAの寛解を達成し(CDAI寛解率は、トファシチニブ群で35%、バリシチニブ群で30%、ペフィシチニブ群で46%、ウパダシチニブ群で44%)、80%以上がLDAを達成していた(CDAI-LDAは同順で、87%、85%、89%、82%)。治療開始後6カ月時点で、CDAIとmHAQの平均スコア、CRPレベル、CDAI寛解率、CDAI-LDAに、4群間で有意な差は認められなかった。
Cohen氏は、「この研究は、JAK阻害薬による治療の有効性を確証するものだ。また、それぞれのJAK阻害薬の有効性が同等である可能性も示唆された。複数のJAK阻害薬が臨床試験で直接比較されたことはこれまでに一度もないが、それぞれのJAK阻害薬に関する個別の試験では、本研究と同様の有効性が示されている。今回の研究のような『実際の経験』は、そのような試験で報告された結果を確証するものだ」と述べる。
一方、JAK阻害薬の安全性についてCohen氏は、「TNF阻害薬と比べると、有害事象のリスクが若干高まるものの、全体的にリスクはかなり低く、TNF阻害薬や他の生物学的製剤のリスクと同程度だといえる」との見方を示す。同氏によると、JAK阻害薬により帯状疱疹のリスクが高まる可能性があるとのことだが、同氏は、「このリスクは、帯状疱疹のワクチン接種で対処可能だ」と話している。
なお、本研究は外部からの資金援助を受けていないが、共著者の中には、JAK阻害薬の製造会社から資金提供を受けている者も含まれている。
[2023年11月1日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら