スイスの研究者らが10年分以上のデータを解析した結果、携帯電話を頻回に使用する若い男性では携帯電話をあまり使用しない男性に比べて、精子濃度が低く、総精子数も少ないことが明らかになった。ジュネーブ大学(スイス)遺伝子医学・発達部門のRita Rahban氏らによるこの研究の詳細は、「Fertility and Sterility」に10月31日掲載された。
この研究の背景情報によると、過去50年間に精子濃度は、平均して精液1mL当たり9900万個から4700万個に減少したという。この現象は、環境要因(内分泌かく乱物質、農薬、放射線)と生活習慣(食事、アルコール、ストレス、喫煙)の双方が影響を及ぼした結果と考えられている。Rahban氏らは、この50年で使用が劇的に増加した携帯電話の使用もその一因ではないかと考え、今回の研究を実施した。携帯電話から発せられる電磁波については、健康に有害である可能性が指摘されている。
本研究では、2005年から2018年の間にスイスの6カ所の徴兵センターで募集した18歳から22歳の男性2,886人を対象に、携帯電話の使用頻度と精液の質との関連が調査された。対象者は精液サンプルを提出し、また、携帯電話の使用頻度や使用しないときの置き場所などのライフスタイルや健康に関する質問票に回答していた。
その結果、携帯電話の使用頻度が週に1回未満の男性では、1日の使用頻度が20回を超える男性に比べて精子濃度と総精子数が有意に高いことが明らかになった(精子濃度:5650万個/mL対4450万個/mL、総精子数:1億5370万個対1億2000万個、いずれも中央値)。この結果から、携帯電話の1日の使用頻度が20回を超える男性では、世界保健機関(WHO)の定める健康な男性の精液の基準値を下回るリスクが、精子濃度では30%、総精子数では21%高まるものと推定された。その一方で、携帯電話の使用と精子の形状や運動能力との間に関連は認められなかった。
さらに、このような携帯電話の使用頻度と精液の質の低下との関連は、2005年から2018年にかけて徐々に減弱していることも示された。Rahban氏は、「この傾向は、2Gから3Gへ、そして3Gから4Gへの移行に伴う携帯電話の送信出力の低下に対応していると考えられる」と述べている。同氏は、「4Gは2Gよりはるかに効率的なデータ伝送が可能なため、電磁波への曝露時間が短縮される。一般的に、4Gや5Gのような新しい世代のモバイル技術は、データ通信の速度と機能を向上させながら、電磁波への曝露レベルを減らすことを目指している」と説明する。
この研究には関与していない、米マイアミ大学保健システムの男性生殖医療・外科部長であるRanjith Ramasamy氏は、「この研究で観察された、携帯電話の使用が精子濃度や総精子数へ及ぼす影響が、男性の生殖能力に影響を与えている可能性は否定できない」と話す。同氏は、「この研究結果は、携帯電話が男性の生殖能力に及ぼす影響について、われわれの理解を再考させるものだ」とコメント。その上で、「精液の質が低下していることは多くの研究で示唆されているが、今回の知見を踏まえると、携帯電話の頻回な使用はその原因の一つなのかもしれない」との見方を示している。
ただしRamasamy氏は、この研究で示された携帯電話のヘビーユーザーの精子濃度(4450万/mL)は、WHOの男性不妊症の数値(1500万/mL)の2倍以上であることを指摘し、「携帯電話の使用が原因で男性が不妊症になるリスクは低い」と述べている。同氏は、「精子は睾丸で持続的に生成され、10週間ごとに更新される。このことは、たとえ携帯電話の使用と精液の質の低下が関連するとしても、多くの場合、その影響は可逆的であることを意味する。それゆえ、男性はこの結果に恐れを抱く必要はない」と話している。
[2023年11月1日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら