中性脂肪値が高いことは心血管系に悪影響を与えることが知られているが、認知機能に対する影響は異なる可能性のあることを示唆するデータが報告された。モナシュ大学(オーストラリア)のZhen Zhou氏らの研究によるもので、詳細は「Neurology」に10月25日掲載された。
この研究では、米国やオーストラリアの高齢者を対象に低用量アスピリンの影響を前向きに検討した縦断研究(ASPREE)と、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータが解析に用いられた。解析対象は、研究参加登録時に認知症や心血管イベントの既往歴のない65歳以上の高齢者で、前者は1万8,294人〔平均年齢75.1歳、女性56.3%、中性脂肪の中央値106mg/dL(四分位範囲80~142)〕、後者は6万8,200人〔同順に66.9歳、52.7%、139mg/dL(101~193)〕。
追跡期間中央値がそれぞれ6.4年、12.5年で、823人および2,778人に認知症の診断が記録されていた。解析の結果、ASPREEでは中性脂肪値が高いほど認知症リスクが低いことが示された〔中性脂肪値が2倍高いごとにハザード比(HR)0.82(95%信頼区間0.72~0.94)〕。同様の結果がUKバイオバンクの解析からも示され(HR0.83)、また遺伝的なリスク因子とされるapoE4を有するサブグループでも同じ結果(HR0.82)だった。さらに、中性脂肪値が高いほど加齢に伴う認知機能の低下速度が遅い傾向も示された。
この論文に対して、米コロンビア大学のNikolaos Scarmeas氏は付随論評を寄せ、いくつかの注意を喚起している。その指摘の主要な内容は、高中性脂肪血症が脳の加齢変化に対して保護的な作用を持つという因果関係が証明されていないという点だ。「報告されたデータは、現在の中性脂肪値が将来の認知症発症リスクに、確実に影響を与えると主張するためのエビデンスとして十分でない」と同氏は述べている。ただし、本研究の結果を「重要な知見であることには違いない」とし、「血清脂質(コレステロールや中性脂肪)は、食事または薬剤によって比較的容易に変化するため、今後の研究が重要だ」と付け加えている。
一方、Zhou氏は、中性脂肪値が低いことが認知症リスクの上昇と関連しているという結果について、「さまざまな説明が可能だ」と話す。具体的には、中性脂肪低値が、栄養失調、体重減少、健康状態不良、フレイルなどの結果として生じていることも考えられると説明している。反対に高齢になっても中性脂肪値が高いことは、栄養状態、健康状態が良好なことを意味する場合もあるという。
またZhou氏によると、今回の研究の解析対象に含まれていた高中性脂肪血症の高齢者は、基準値をやや上回る程度の中性脂肪値にとどまっている人が多く、薬物治療が必要なほど高値の人は少なかったとのことだ。さらに同氏は、「中性脂肪値の高さの違いだけでなく、高中性脂肪血症の発症年齢の違いも、認知機能へ異なる影響を及ぼす可能性がある」との推測も付け加えている。
なお、著者らによると、過去の研究の中には中性脂肪値が高い高齢者では、記憶に関与する脳領域の萎縮が顕著に認められると指摘するものもあるという。ただし、そのような過去の研究も今回発表された研究も全て、因果関係を証明可能な研究デザインでは実施されていない。
[2023年10月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら