1型糖尿病を発症してからあまり時間が経過しておらず、インスリン分泌がまだ残存している小児に対して抗ウイルス薬を投与すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞の保護につながる可能性のあることが報告された。オスロ大学病院(ノルウェー)のIda Maria Mynarek氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に10月4日掲載された。
1型糖尿病は、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンを分泌できなくなり、インスリン療法の絶対的適応となる病気。ウイルス感染を契機に異常な自己免疫反応が生じて、β細胞が破壊されることが発症の一因と考えられている。例えば、エンテロウイルスというウイルスの感染と1型糖尿病発症の関連などが報告されている。Mynarek氏らは、エンテロウイルス感染症の治療薬として開発されている抗ウイルス薬(pleconaril)と、ウイルス性肝炎の治療などに実用化されているリバビリンとの併用により、診断後間もない1型糖尿病患児のβ細胞機能を保護できるか否かを検討した。
研究参加者は、1型糖尿病と診断されてから3週間以内の患児96人。主な特徴は、年齢は範囲6~15歳で平均11.1±2.4歳、女子が41.7%、診断時のHbA1cが11.8±4.3%で、エンテロウイルスの感染が確認された患児はいなかった。無作為に抗ウイルス薬群47人とプラセボ群49人に分け、診断から17.8±3.2日後から6カ月間にわたって投与を継続した。ベースライン時点において、年齢や性別の分布、BMI、診断時HbA1c、1型糖尿病リスクに関連のある自己抗体の保有率、診断から投与開始までの期間などに有意差はなかった。
主要評価項目として設定していた12カ月経過時点における食事負荷2時間以内のC-ペプチド(インスリン分泌能の指標)上昇曲線下面積(AUC)は、プラセボ群よりも抗ウイルス薬群の方が37%有意に高かった(ベースラインレベルで調整後の群間差がP=0.04)。プラセボ群でのベースラインからのC-ペプチドAUC低下幅は24%だったが、抗ウイルス薬群では11%であり、また後者の群の86%は比較的容易なインスリン療法のレジメンで血糖コントロールが可能な状態に維持されていた。ただし、HbA1cやグリコアルブミン、インスリン投与量には有意差がなかった。なお、重症低血糖を含む有害事象の発生状況は有意差がなかった。
研究グループによると、「1型糖尿病発症のベースにあるメカニズムは悪性度の高くないウイルス感染の持続であって、新たなワクチンを開発することで1型糖尿病を予防できるという考え方はこれまでにもあった」といい、「われわれの研究の結果はそのような概念を裏付けるものだ」としている。また、「1型糖尿病の病態進行を引き起こすβ細胞破壊を、抗ウイルス治療によって遅らせることができるかどうかを詳細に評価するため、より早期の段階で介入するといった、さらなる研究を行うべきだ」と付け加えている。
[2023年10月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら