進行した心不全患者には幹細胞治療が有効であることが、臨床試験で明らかになった。損傷した心臓組織を修復するようにプログラムされた幹細胞の注入を受けた患者では、シャム治療を受けた患者と比べて全体的な生活の質(QOL)が改善することが示されたのだ。米メイヨークリニックの循環器専門医である山田さつき氏らによるこの研究の詳細は、「Stem Cell Translational Medicine」に11月24日掲載された。
心筋梗塞後に心不全が生じる例は珍しくない。これは、心筋が損傷を受けることで心臓から全身に血液を送り出す力が弱まるためだと研究グループは説明する。心不全患者の多くには、息切れ、疲労、足のむくみなどの症状が現れる。病状が進行すると、日常生活が制限され、QOLが低下する。論文の上席著者である、メイヨークリニック再生医療センター長のAndre Terzic氏は、「心不全は急増しつつある疾患で、新規の治療法の開発が必要だ」と同クリニックのニュースリリースで述べている。
今回の研究では、10カ国、39カ所の病院から、食事療法、薬物療法、血行再建療法などの標準的な治療が奏効しない進行性慢性心不全患者315人を試験対象者として登録。患者は、自身の骨髄から採取した幹細胞を損傷した心筋を修復するように再プログラムした後に心臓に注入する治療を受ける群(157人、幹細胞治療群)とシャム治療を受ける群(158人、シャム治療群)にランダムに割り付けられた。アウトカムとした心不全に関連するQOLは、治療開始前と治療後26、39、52週目の時点でMinnesota Living With Heart Failure Questionnaire(MLHFQ)により評価した。MLHFQは21項目の質問で構成され、総スコア(0〜105点)が高いほどQOLが不良であることを意味する。
最終的に、幹細胞治療群の120人、シャム治療群の151人の合計271人が割り当てられた治療を受け、前者で104人、後者で132人が52週目の追跡調査を完了した。1年間の追跡期間中のMLHFQ総スコアの変化(平均)は、幹細胞治療群、シャム治療群の順に、26週時点で−15.9点と−10.4点、39週目時点で−14.9点と−11.0点、52週目時点で−15.6点と−11.5点と、両群とも低下していた。1年間の追跡期間全体での両群間の総スコアの差は−4.6点と幹細胞治療の方が改善効果が大きく、統計学的にも有意であった。さらに、幹細胞治療群は死亡率や入院率も低かった。
山田氏は、「メイヨークリニックで開発された再生技術を検証した最大規模の心血管細胞治療の試験データから、進行性心不全患者に対する幹細胞治療は、生存期間の面でもQOLの面でも有益であることが示された」と話す。また同氏は、「再生医療の有用性は、これまで臨床医が報告する転帰に基づいて評価されてきた。それに対してこの研究では、患者の経験に耳を傾けるようにデザインされており、その点が他の研究とは異なっている」と付言している。
[2023年12月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら