泣き始めた女性の姿に弱り果て、泣きやませるためにあの手この手を尽くす男性の姿は、昔からテレビや映画でよく見かけるが、生化学的な観点からこのような男性の反応を説明できるらしい。ワイツマン科学研究所(イスラエル)脳科学部のShani Agron氏らによる研究で、女性の涙には男性の攻撃性を40%以上も抑制する化学物質が含まれていることが示された。この研究の詳細は、「PLOS Biology」に12月21日掲載された。
雌のげっ歯類の涙には、雄の攻撃性を抑制するなどさまざまな効果を持つ社会的化学信号が含まれていることが報告されている。女性の涙にも男性ホルモンであるテストステロンを低下させる化学信号が含まれているが、それが行動に与える影響については明らかにされていない。Agron氏らは、テストステロンの低下は攻撃性の低下と関連しているため、女性の涙もげっ歯類の涙と同様に、男性の攻撃性を抑制する作用があるとの仮説を立て、それを検証する実験を行った。
一つ目の実験では、実験参加者の男性にマネーゲームをプレイさせて攻撃性を誘発し、その攻撃性が女性の涙のにおいをかぐことでどう変わるかが検討された。ゲームは、相手の不正により自分のお金を不当に奪われるという怒りを誘発する要素と、相手から損得なしにお金を取る復讐的な要素が組み合わさったものだった。涙は、22〜25歳の6人の女性がさまざまな感情に対する反応として流した涙(感情的な涙)と、生理食塩水を目から頬に流れるようにして採取した偽の涙の2種類を用意した。男性には、女性の頬をつたっていない生理食塩水のにおいを3回かがせた後、感情的な涙と偽の涙のにおいをランダムな順で10回、約35秒の間隔をあけてかがせた。実験を完了した25人(平均年齢25.84±3.46歳)を対象に解析した結果、男性の攻撃性は、感情的な涙のにおいをかがせたときには43.7%減少することが明らかになった。
次に、2つ目の実験として、ヒトの嗅覚系が無臭である涙に含まれるシグナルを処理できるのかどうかを調べた。その内容は、実験室で62種類のヒトの嗅覚受容体をHana3A細胞に発現させ、感情的な涙と偽の涙にさらした後、その活性化の様子をリアルタイムで観察するというものだった。その結果、4種類の嗅覚受容体が感情的な涙に用量依存的に反応することが示された。
最後に、26人の男性(平均年齢27.2±3.3歳)を対象に一つ目と同様の実験を行い、感情的な涙と偽の涙のにおいをかいだときの脳の変化を機能的MRIで調べた。その結果、攻撃性を誘発するゲームをしている間には、攻撃性に関連した2つの脳領域(左島皮質前部と両側前頭前皮質)が活性化するが、感情的な涙のにおいをかぐことで、これらの領域の活性化が抑制されることが示された。
Agron氏らは、「われわれの研究から、マウスと同様に、女性の涙にも男性の攻撃性を抑制する化学信号が含まれていることが明らかになった。この結果は、感情的な涙は人間特有のものであるという考え方に反するものでもある」と話している。
[2023年12月22日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら