補聴器の第一目的が「聞こえ」を補うことなのは明らかだが、新たな研究によると、補聴器を常用することで寿命が延びる可能性もあるようだ。研究論文の筆頭著者である、米南カリフォルニア大学ケック医学校の耳鼻咽喉科医であるJanet Choi氏は、「補聴器を常用している成人の難聴者は、補聴器を使用していない成人の難聴者よりも死亡リスクが24%低いことが示された」と述べている。この研究の詳細は、「The Lancet Healthy Longevity」1月号に掲載された。
Choi氏らによると、過去の研究では、未治療の難聴は寿命の短縮や、社会的孤立、うつ病、認知症などの健康問題と関連することが示されているという。しかし、補聴器の使用が難聴に伴うそのような健康上のリスクを回避するのに役立つかどうかについては明らかになっていない。
今回の研究では、1999年から2012年の間に米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加し、聴覚と補聴器の使用に関する質問に回答した20歳以上の成人9,885人(平均年齢48.6歳、女性51.0%、1,863人が難聴)のデータを、死亡者データベースであるNational Death Indexにリンクさせて追跡調査を行った。
聴力検査で測定された難聴の重み付け後の有病率は14.7%であり、中央値10.4年の追跡期間での全死亡率は13.2%であった。難聴者の間では、12.7%の人が補聴器を常用していた。解析の結果、難聴は死亡率上昇の独立したリスク因子であることが示された(調整ハザード比1.40、95%信頼区間1.21〜1.62)。また、難聴者の間では、人口統計学的属性や聴力レベル、病歴を考慮しても、補聴器の常用者では補聴器の非使用者に比べて死亡リスクが低かった(同0.76、0.60〜0.95)。一方で、補聴器の非常用者と補聴器の非使用者の間では、死亡リスクに有意な差は認められなかった(同0.93、0.70〜1.24)。
Choi氏は、「これらの結果は、補聴器を常用することが人々の健康を守り、早期死亡を予防する可能性を示唆するもので、非常に興味深い」と大学のニュースリリースで述べている。同氏は、補聴器の常用による死亡リスクの低下は、聴力の向上がメンタルヘルスや脳の機能にもたらす利点と関連している可能性があると推測している。
さらにChoi氏は、補聴器の使用によりうつ病や認知症が緩和されることが他の研究で示されていることを挙げ、「補聴器はこのような問題を治療することで全体的な健康増進に貢献している可能性がある」と話している。
米国での難聴者の数は4000万人に上るが、補聴器を必要とする人のうち実際に使用している人は10人に1人にとどまるという。Choi氏は、「補聴器の使用には、経済的な問題や自分に適した補聴器を選択することの難しさ、補聴器の使用に付随するスティグマなどの障壁がつきものだ。今回の研究結果を受け、そのような障壁を乗り越えてでも補聴器を使おうとする人が増えることを期待している」と話す。
補聴器の常用と死亡リスクとの関連性についての理解を深めるには、より大規模な研究が必要である。Choi氏はさらに、患者ごとのニーズに合わせて補聴器の選択肢を調整するAI主導のデータベースの開発にも取り組んでいるという。
[2024年1月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら