薬が脳活動に与える影響の大きさは、薬の使用者がその薬の強さをどれだけ信じているかに左右される可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。電子タバコのニコチン量が低、中、または高用量であると告げられた喫煙者は、実際のニコチン量は一定であったにもかかわらず、告げられた量に一致する脳の活性化を示したという。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のXiaosi Gu氏らによるこの研究結果は、「Nature Mental Health」に1月3日掲載された。
Gu氏は、「思い込みは、われわれの行動に強い影響を及ぼす可能性があるにもかかわらず、その効果は曖昧とされており、神経科学的手法で定量化して検討されることはほとんどない」と言う。そして、「われわれは人間の思い込みが、薬と同じように用量依存的に脳活動を調節するのかどうかを調べることにした」と研究背景について説明している。
この研究でGu氏らは、ニコチン依存症の人を対象にニコチン入りの電子タバコを用いた実験を行い、思い込みが薬を投与したときと同じように用量依存的に脳の活動に影響を与えるのかどうかを調べた。用意された電子タバコには、ニコチン量が低・中・高であることを示すラベルが貼られていたが、実際には全て同じニコチン量だった。研究グループは、実験参加者が電子タバコを吸う前にそこに含まれているニコチン量を知らせることで、「思い込み」の状況を作り出した。実験参加者にこれらの電子タバコをランダムな順で与え、いずれかを吸い終わるごとに意思決定タスクに取り組んでもらい、その間の脳の機能的MRI(fMRI)検査を行った。最終的に、20人の参加者から60回分のfMRIスキャンデータが得られた。
脳活動の評価を行った結果、参加者の信じていたニコチン量の増加に伴い、睡眠や覚醒に関与する脳領域である視床の活性も高まることが明らかになった。この効果は、これまで薬によってしか得ることができないと考えられていたものだ。また、視床と、意思決定や信念状態に重要と考えられている脳領域である腹内側前頭前野の間の機能的結合においても、思い込みの用量依存的な効果が認められた。
Gu氏は、「これらの結果は、薬に対する反応に個人差がある理由の説明となる可能性がある。また、物質使用障害の治療では、個人の思い込みがターゲットになり得ることを示唆するものでもある。さらには、依存症以外のさまざまな精神疾患に対する精神療法などの認知的介入が神経生物学的なレベルで及ぼす影響についての理解も深まるだろう」と述べている。さらに同氏は、「人間の薬に対する思い込みがこれほどの影響力を持つのであれば、思い込みを利用することで患者の薬治療に対する反応を高められる可能性がある」との見方を示す。
Gu氏は、「例えば、薬の効能が、薬に対する思い込みが脳や行動に及ぼす作用にどのような影響を及ぼすのか、また、その思い込みの影響はどの程度持続するのかを調べることは、非常に興味深い」と話す。また同氏は、「われわれが得た知見は、より広い視野で健康を考えた場合に薬や治療をどうとらえるのかを大きく変える可能性がある」と述べている。
[2024年1月5日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら