37年前に手を失ったイタリアのピストイア在住のFabrizioさん(57歳)は、装着したばかりの新しい義手がこれまでのものと何が違うのかを良く理解していなかったが、その義手を彼に提供した研究者たちの1人に触れたとき、それが理解できたという。初めてその義手を装着したときのことについてFabrizioさんは、「研究者の1人が彼の体の表面にセンサーを置いたとき、私の幻の手で他の人の温もりを感じることができた。それは私にとっては強烈な感情で、まるで誰かとのつながりが再活性化されるような感じだった」と話している。
「Med」2月9日号に掲載された症例報告によると、Fabrizioさんは義手に搭載された最先端のセンサーのおかげでそのような感覚を体験することができたという。これらのセンサーは、装着している人にリアルな温度のフィードバックをリアルタイムで提供することができる。新しい義手を装着したFabrizioさんは、さまざまな温度の物体を識別し、分別することができた。研究グループによると、これは自然に温度を感知する感覚を機能的な義肢に取り入れた初めての例だという。
研究論文の共同責任著者で、サンターナ大学院大学(イタリア)バイオロボティクス研究部門教授のSilvestro Micera氏は、「温度は、ロボットハンドに感覚を取り戻す研究の中で未開拓だった最後の領域の一つだ。今回の研究で、手や足を切断した人にあらゆる感覚を取り戻すところまでかなり近付いたと思う」と話す。
研究グループは「この“MiniTouch”と呼ばれるデバイスは既製の電子機器を使用しており、患者の温度感覚を回復させるための手術は不要である」と説明。Micera氏はまた、同大学のニュースリリースの中で、「これは極めてシンプルなアイデアで、市販の人工装具に簡単に組み込むことができる」と述べている。
研究グループは、Fabrizioさんの残っている前腕の、幻の人差し指からの温熱感覚を感じる部分にサーモード(温度計)を取り付けるとともに、義手の人差し指の先にセンサーを取り付けてリンクさせ、Fabrizioさんが熱の投影感覚を正常に経験しているか、義手でさまざまな運動タスクを実行できるかなどを確認した。その後、異なる温度(20℃、24℃、40℃)の水またはお湯が入ったボトルを識別できるかのテストを行った。その結果、MiniTouchを使った際には100%の正確度で識別できたのに対し、デバイスを使わないと正確度は33%に低下することが示された。また、FabrizioさんはMiniTouchによって得られた温かさの感覚を手掛かりに、目隠しした状態で人間の腕と義肢の腕を80%の正確度で判別することができた。一方、MiniTouchなしの場合ではその正確度は60%に低下した。
研究論文の共同責任著者で、スイス連邦工科大学ローザンヌ校トランスレーショナル神経工学部長のSolaiman Shokur氏は、「温度の情報を追加することで、触覚がより人間の感覚に近くなる」と説明し、「われわれは、温度を感知する能力を持つことで、切断患者の身体化、つまり『この手は自分のものだ』という感覚を改善できるのではないかと見ている」と話している。
また、このようなフィードバックは、本物の手と同程度に優れた性能を持つ義手を作り出す上で重要であるとShokur氏は指摘し、「ロボットハンドの器用さがある程度のレベルに達したら、それを最大限に活用するためには感覚フィードバックが必要になってくる」と説明している。その上で同氏は、「触覚、固有受容感覚(自分の位置や運動を感知する能力)、そして温度感覚を統合したマルチモーダルシステムを開発することがわれわれの目標だ。そのようなタイプのシステムがあれば、触れたものについて『これは柔らかくて熱い』、あるいは『これは硬くて冷たい』といったことが分かるようになる」と付け加えている。
[2024年2月9日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら