哺乳類の中では、ヒト以外に何種類かの鯨類(クジラ目)とチンパンジーに閉経があることが知られている。しかし、閉経が何のために、どのように進化してきたのかについては不明だった。こうした中、英エクセター大学動物行動研究センターのDarren Croft氏らの研究から、閉経のある鯨類はそれ以外の鯨類よりも大幅に寿命が長く、それは閉経することで自分の娘と繁殖相手を競い合うことなく、子どもや孫の生存を助けるためであることが示唆された。この研究結果は、「Nature」に3月13日掲載された。
論文の共著者である英ヨーク大学生物学分野のDaniel Franks氏は、閉経の進化に関するこれまでの研究は、単一種に焦点を当てたものであったと指摘する。それに対し、今回の研究は、ハクジラ類の複数の種に閉経のあることを明らかにした最近の研究成果により実現したものであり、複数の種を横断的に検討した初の試みであると述べている。
論文の筆頭著者であるエクセター大学心理学分野のSamuel Ellis氏は、「動物の進化の過程では、自分の遺伝子を次世代に伝えるための形質や行動が優先的に選択される。雌がそのために取る最も明白な戦略が、生涯にわたって繁殖することだ」と述べる。しかし、5,000種以上に及ぶ哺乳類の全てが、生涯にわたって生殖能力を持つわけではない。ヒトの他に、チンパンジーや5種類のハクジラ類(コビレゴンドウ、オキゴンドウ、シャチ、イッカク、シロイルカ)には閉経があることが知られている。
研究グループがハクジラ類の生活史に関するデータベースを集めて分析した結果、閉経のあるハクジラ類の雌は、体格が同程度の閉経のないハクジラ類の雌よりも40±5年長生きすることが明らかになった。研究グループによると、閉経のあるこれらのハクジラ類の雌は、同種の雄よりも長生きするのが常であるという。その例として、シャチの雌の中には80代まで生きる個体があるのに対し、雄は40歳までに死ぬ個体が多いことに言及している。
Croft氏は、「閉経と繁殖終了後の生存期間の進化は、非常に特殊な状況下でしか起こり得ない」と言う。同氏は続けて、「まず、その種は、雌が自分の子どもや孫と密接に関わり合いながら一生を過ごすような社会構造を持っている必要がある。次に、雌が、家族の生存確率を高める手助けをする機会がなければならない。例えば、ハクジラ類の雌は、仲間と餌を共有することが知られている他、餌が不足しているときには知識を使って群を誘導し、餌を見つけられるようにする」と詳しく説明する。
Croft氏は、「人類がこのような生活史を、さまざまな点で大きく異なる種と共有しているとは、魅力的だ。この研究結果は、ハクジラ類とヒトの間に大きな違いがあるにもかかわらず、両者の生活史は同じところに集約されることを示している。つまり、ヒトと同じように、ハクジラ類の閉経は、生殖寿命を延ばすことなく総寿命を延ばすための淘汰によって進化したのだ」と述べている。
[2024年3月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら