「バーチャル・バイオプシー」で非侵襲的な皮膚病変の生検が可能に?

提供元:HealthDay News

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公開日:2024/05/08

 

 がんの可能性が疑われるほくろや皮膚病変のある人の多くは、生検に出す組織を採取するため、メスやかみそりによる切除に耐えなくてはならない。しかし近い将来、非侵襲的な「バーチャル・バイオプシー」と呼ばれる方法によって皮膚組織をスキャンするだけで、そこにがん細胞が含まれているかどうかを見極められるようになる可能性のあることが、米スタンフォード大学構造生物学准教授のAdam de la Zerda氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「Science Advances」4月10日号に掲載された。

 論文の共著者で同大学皮膚科学准教授のKavita Sarin氏は、「この手法は臨床現場における皮膚病変や皮膚疾患の診断やモニタリングのあり方を変える可能性を秘めている」と同大学のニュースリリースの中で述べている。

 生検では通常、採取された組織を薄くスライスし、細胞のパターンや形、構造を強調する薬品で処理する。このようなスライドの作成には多大な労力を要するだけでなく、生検組織に不可逆的なダメージを与える。例えば、生検組織を一方向にスライスしてしまうと、別の方向にスライスして観察することはできない。

 今回報告された新しい方法には、通常、眼科医が目の奥を検査するために使用する光干渉断層撮影(OCT)を他の臓器にも使えるようにした技術が用いられている。この新しい検査方法では、まず、レーザーの光波が人体組織からどのように跳ね返るかを測定する。これは、音波を使って臓器を可視化する超音波検査の仕組みと同様だという。このようにして得られた2次元の画像を、訓練済みの人工ニューラルネットワークに処理させることで、病理組織学的診断で得られるようなH&E(ヘマトキシリン・エオジン)染色を行った組織標本の特徴を持つ画像が生成される。

 論文の上席著者であるde la Zerda氏は、「われわれは、多くの疾患の診断で用いられている標準的な病理スライド画像の代わりとなり得るOCT画像を作っただけでなく、スキャンの解像度を大幅に向上させ、他の方法では見ることが極めて困難な情報を得られるようにした」と話す。同氏は続けて、「われわれは画像の質を徐々に向上させ、組織のより細部まで見えるようにした。そのようにして生成されたOCT画像は、何を表示できるかという点で、病理スライドにかなり近いものになった」と言う。実際、スタンフォード大学の3人の皮膚科医にOCT画像と病理スライドをランダムに組み合わせて見せたところ、どちらを使っても同程度の精度で細胞構造を捉えることができたという。

 この新技術があれば、皮膚科医は患者の皮膚にできた異常な斑点が、その後、増殖したり変化したりするかどうかを見極めてから対処する必要がなくなるとde la Zerda氏は説明する。同氏は、「医師が診察室でOCTカメラを取り出し、患者の皮膚にある一つ一つのほくろの中の細胞を画像化できる可能性を想像してみてほしい」と話す。

 さらにこのOCTの技術は、がんの手術にも同様の利点をもたらす可能性がある。研究グループは、乳がん患者の約20%で初回手術ではがんを完全に取り除くことができず、2回目の手術が必要になることを指摘。手術室で生成されるOCT画像は医師が見逃したがん細胞を検出するため、追加の手術を回避するのに役立つ可能性があるとしている。

[2024年4月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら