進行した肝硬変では、血液中のアンモニア濃度が危険なレベルまで上昇することがあるが、1食でも肉を抜くことで、そのリスクを抑制できる可能性が新たな研究で示された。論文の上席著者で、米バージニアコモンウェルス大学の消化器内科医であるJasmohan Bajaj氏らによるこの研究結果は、「Clinical and Translational Gastroenterology」に5月2日掲載された。Bajaj氏は、「たまに食事を肉なしにするというようなちょっとした食生活の変化でも、肝硬変患者の体内で有害な血液中のアンモニア濃度が下がり、肝臓に良い影響がもたらされる可能性のあることが分かり、心躍る思いだった」と話している。
アンモニアは、腸内細菌が食物中のタンパク質を分解する際に発生する。健康な人では、アンモニアは肝臓で無毒化されて腎臓に送られ、尿とともに排泄される。しかし肝硬変になると、肝機能が低下してアンモニアが処理されなくなる。そのためアンモニアは、有毒な状態のままで体内に蓄積する。このような有毒なアンモニアが脳に達すると、錯乱やせん妄の症状を引き起こし(肝性脳症)、放っておくと昏睡状態に陥り、死に至ることもある。
体内でのこのようなアンモニアの生成には、食事が大きな影響を及ぼしていると研究グループは指摘する。食物繊維が少なく、肉や炭水化物が多い欧米型の食事は、腸で生成されるアンモニアのレベルを高めるからである。
そこでBajaj氏らは今回、基本的な食生活が肉食である、米リッチモンドVA医療センターの肝硬変患者30人を対象にランダム化比較試験を実施し、1回の肉食ベースの食事を、タンパク質量が同等の肉を含まない食事に置き換えた場合の、アンモニアの代謝とメタボロミクスへの影響を評価した。対象者は、肉、ビーガン用の代用肉、またはベジタリアン用の豆を使った3種類のハンバーガーのいずれかを摂取する群にランダムに割り付けられた。いずれのハンバーガーも、含まれているタンパク質の量は同じ20gだった。試験開始時と食事の摂取から1時間おきに3回血液を採取し、液体クロマトグラフィー質量分析法によるメタボロミクス分析と、血清アンモニア濃度の測定を行った。
その結果、肉バーガー群では、食後に血清アンモニア濃度が上昇していたのに対し、代用肉バーガー群や豆バーガー群ではそのような上昇は認められないことが明らかになった。また、肉バーガー群では他の2群に比べて、必須アミノ酸である分岐鎖アミノ酸やアシル・カルニチンの代謝物が減少したほか、脂質プロファイルが変化(スフィンゴミエリンが増加、リゾリン脂質が減少)したことが確認された。
Bajaj氏は、「長期的に食事や行動を変えるのは非常に難しいことだが、われわれは、たまに食事を変えることが肝硬変患者にとって有効な選択肢となるのではないかと考えた。肝硬変を抱えている人は、自分の食事療法に前向きな変化をもたらすことが、無理や困難なことではないと知るべきだ」と話している。
ただしBajaj氏らは、非常に小規模の患者を対象にした本研究の結果はあくまで予備的なものである点を強調している。それでも同氏らは、医師が、肝硬変患者にこの新しい知見を伝え、肉食からの離脱を勧めても損はないとの考えを示している。
[2024年5月3日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら