QT延長症候群患者の高強度の運動は心停止のきっかけにはならず

提供元:HealthDay News

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公開日:2024/08/14

 

 不整脈の一種であるQT延長症候群(LQTS)の患者が高強度の運動をしたとしても、それによって突然死や心停止のリスクがさらに上昇することはなく、安全であることが米イェール大学医学部心臓病学教授のRachel Lampert氏らによる研究から明らかになった。詳細は、「Circulation」に7月25日掲載された。Lampert氏らは、「適切な治療を受けていたLQTS患者では、高強度の運動をしていた人と、中強度の運動をしていた人や座位時間の長い人のいずれにおいても、不整脈イベントの発生は少ないことが示された」と結論付けている。

 米クリーブランド・クリニックの情報によると、LQTSは心拍のリズムを正常に保つための電気的なプロセスに遅れが生じる病態で、それにより、危険性の高い不整脈が引き起こされる可能性がある。LQTSの多くは遺伝性であり、疾患をコントロールするための治療法には薬物療法のほか、植え込み型デバイスの留置、手術などがある。

 Lampert氏らによると、LQTSは約2,500人中1人に発生する疾患で、最も高頻度に検出される遺伝性の心臓の電気的異常であることが、ある欧州の研究によって明らかにされているという。また、複数の先行研究で、高強度の運動がLQTS患者の心停止を誘発する可能性のあることが示唆されている。しかし、これらの研究は、そのような心イベントの発生後にLQTSと診断された患者を主な対象としていた。

 では、すでにLQTSがあることが判明していて、それに対する適切な治療を受けている患者の場合はどうなのだろうか?
 この疑問に対する答えを明らかにするため、Lampert氏らは5カ国の37カ所の医療機関でLQTSと診断された患者1,413人の転帰を3年間にわたって追跡した。

 対象者の年齢は8~60歳で、LQTSの原因となる遺伝子を保有していることが明らかになっているか、心電図検査でLQTSのあることが判明しているかのいずれかであり、研究実施時点で、全対象者が薬物療法か除細動器などの植え込み型デバイスによる適切な治療を受けていた。このうち約半数以上(52%)はランニングなどの高強度の運動を行っていたが(高強度運動群)、残りの人は中強度の運動(ウォーキングや庭仕事などの活動)を行っているか、ほとんど座位で過ごしている人で、非高強度運動群とされた。

 3年間に及ぶ追跡の結果、高強度運動群と非高強度運動群の間で、突然死、突然の心停止、不規則な心拍を原因とする失神、植え込み型除細動器による治療が必要と判断されるほど困難な状態の不整脈、の4つの心臓の問題の発生率について、統計学的な有意差は認められなかった。全般的な心イベントの発生率は高強度運動群で2.6%、非高強度運動群で2.7%といずれも低かった。この研究を通じて心臓突然死に至ったのは、31歳の女性ただ1人だった。この女性は、後に別の深刻な心臓症候群を持っていることが判明しており、また亡くなる前に「意図的に治療を無効化」していたという。さらに、対象者のうち116人は「競技アスリート」であったが、これらの人の心イベント発生率も極めて低かったとLampert氏らは説明している。

 こうした結果を受けてLampert氏らは、適切な治療が行われていればLQTSは激しい運動の障壁にはならないとの考えを示している。その上で、LQTSの患者がスポーツや激しいワークアウトに取り組むべきかどうかの判断は、医師のみで行うのではなく、そのような活動の必要性に関して患者と医師の間での「共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)」を通じて行われるべきであると付け加えている。

[2024年7月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら