末期腎不全を患っているが腎移植の対象とはならない高齢患者に透析を行っても、得られるベネフィットと健康上のリスクのバランスは悪く、透析を行わない選択肢を検討する方が望ましいケースもあるとする研究結果が報告された。この研究によると、腎不全の診断後1カ月以内に透析を開始した高齢患者は、透析開始まで1カ月以上待った患者や透析を受けなかった患者に比べて、生存日数は平均で9日長かったものの、入院日数も13.6日多かったことが明らかになったという。米スタンフォード大学医学部腎臓学分野のMaria Montez-Rath氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に8月20日掲載された。
この研究でMontez-Rath氏らは、米国退役軍人省(VA)のデータを用いて、2010年から2018年の間に慢性腎不全の診断を受けた65歳以上の患者2万440人(平均年齢77.9歳)の健康記録を評価した。これらの患者は、推算糸球体濾過量(eGFR)が12mL/分/1.73m2以下で、腎臓移植の対象にはされていなかった。Montez-Rath氏らは、患者を診断後30日以内に透析を開始した群(透析群)と、医学的管理を継続した群(医学的管理群)に分けた。
診断から透析開始までの期間中央値は、透析群で8.0日、医学的管理群で3.0年であった。3.0年の追跡期間における平均生存日数は、透析群で770日、医学的管理群で761日であったが、有意な群間差は認められなかった(差9.3日、95%信頼区間−17.4〜30.1日)。その一方で、透析群では医学的管理群に比べて、自宅で過ごした日数が13.6日少なかった。年齢層別に検討すると、65〜79歳では透析群は医学的管理群よりも平均生存日数が16.6日長かったが、自宅で過ごした日数は14.4日少なかった。一方、80歳以上では、透析群は医学的管理群よりも平均生存日数が60.0日長かったが、自宅で過ごした日数は12.9日少なかった。さらに、医学的管理群の中でも、追跡期間中に透析を開始しなかった患者と透析群を対象に検討すると、透析群の方が生存期間は77.6日長かったが、自宅で過ごした日数は14.7日少なかった。
こうした結果を受けてMontez-Rath氏は、「透析は、75歳や80歳の患者が本当に望んでいることなのだろうか」と疑問を呈する。同氏は、「本研究結果は、診断後すぐに透析を開始すれば生存期間は延びるかもしれないが、透析に長い時間を費やすことになり、入院が必要になる可能性も高まることを示している」と付け加えている。
論文の上席著者であるスタンフォード大学医学部腎臓学教授のManjula Tamura氏は、「透析は、けいれんや疲労などの副作用を伴う上に、通常、1回当たり3~4時間の通院が週に3回必要になる、かなり集中的な治療であり、生活習慣の大きな変化を伴う」と指摘する。そして、「全ての患者にとって、特に高齢患者にとって、透析開始により得るものと失うものを理解することは極めて重要だ。患者と医師は、透析を行うかどうかと透析開始のタイミングを慎重に検討すべきだ」と主張する。
Montez-Rath氏は、「患者やその家族は、透析が唯一の選択肢である、あるいは透析により寿命が大幅に延びると考えがちだ。患者は、透析が何を意味するのかをよく理解せずに同意してしまうことが多い」と話す。一方Tamura氏は、医師の方も、患者に希望を与えたい、あるいは透析治療の欠点を十分に理解していないという理由で患者に透析を勧めることがあると指摘する。
Tamura氏は、「医師は、フレイルのある高齢患者に対する透析を、延命の手段ではなく、症状緩和を目的とする治療として説明することを検討する必要があるかもしれない」との考えを示す。同氏は、「現在、透析は、患者にとって生きるか死ぬかの選択肢として捉えられることが多い。このように説明されると、患者には透析が自分の目的に合致するかどうかを考える余裕がなくなる上に、治療により得られるベネフィットやウェルビーイングの過大評価にもつながる。しかし、透析が症状緩和として説明されると、患者は透析により得られるものもあれば失うものもあるということをより理解しやすくなるだろう」と話している。
[2024年8月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら