新しい記憶を作るためには夜間の良質な睡眠が不可欠であることが、米コーネル大学神経生物学および行動科学分野のAzahara Oliva氏らによる新たな研究で示された。日中の記憶を保存したニューロン(神経細胞)は睡眠中にリセットされるのだという。研究の詳細は、「Science」に8月15日掲載された。Oliva氏は、「このメカニズムによって脳は同じリソース、同じニューロンを翌日の新しい学習のために再利用することができる」と言う。
何かを学んだり、新しい経験をしたりすると、人間の記憶を作り出す機能に不可欠な脳領域である海馬のニューロンが活性化され、そうした出来事が記憶として保存される。ニューロンは睡眠中も同じ活動パターンを繰り返し、大脳皮質と呼ばれるより大きな脳領域へとその記憶を転送する。では、海馬の全てのニューロンを使い切ることなく新しい出来事を学び続けられるのは、どうしてなのか。Oliva氏らはその疑問を解くために、マウスを用いた実験を行った。
Oliva氏らは、マウスの海馬に電極を埋め込み、学習中と睡眠中のマウスのニューロンの活動を記録した。その結果、その日の記憶を保存したニューロンは、その記憶を大脳皮質に送り込んだ後、リセットされることが判明した。海馬は、CA1、CA2、CA3の3つの領域に分けられる。CA1領域とCA3領域については研究が進んでおり、時間と空間に関わる記憶の符号化(外部情報を記憶として保存するプロセス)に関わっていることが明らかになっているが、CA2領域については不明な点が多かった。しかしこの研究から、CA1領域とCA3領域は、CA2領域の指示により睡眠中にリセットされることが示唆された。
Oliva氏はコーネル大学のニュースリリースの中で、「われわれは、睡眠中に海馬が別の状態になることに気付いた。それは、全てが静まり返った状態だ。それまで非常に活発だったCA1領域とCA3領域が突然静かになったのだ。これは記憶のリセットであり、この状態はCA1領域とCA3領域の間に位置するCA2領域によって引き起こされていた」と説明する。
さらに、脳に存在する介在ニューロンの中の2種類のサブタイプが、並列する回路で異なる役割を果たしていることも判明した。それらの回路の1つは記憶の維持を担当し、もう1つは記憶をリセットする役割を担っているという。
Oliva氏らは、「全般的に見ると、今回の研究から得られた知見は、全ての動物の脳の健康に睡眠が極めて重要である理由の説明に役立つものである」と述べている。また、この新たな発見は、今後の研究で、記憶の固定化のメカニズムを応用することで記憶力を高めるツールを見つけ出す助けとなる可能性がある。さらに、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のようなネガティブな記憶によって引き起こされる問題や、アルツハイマー病のような記憶障害を治療する新しい方法の基礎の構築につながる可能性もある。
[2024年8月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら