米スタンフォード大学材料科学・工学助教のGuosong Hong氏らは、普通の食用色素を使ってマウスの皮膚を透明にし、皮膚の内側の血管や臓器の働きを可視化することに成功したことを報告した。一般に「黄色4号」と呼ばれているタートラジンという色素を溶かした水溶液を皮膚に塗布してしばらく置くと皮膚が透明になり、拭い取ると透明化の効果は速やかに失われるという。マウスよりも厚い人間の皮膚にもこの方法が通用するかどうかは不明だが、Hong氏らは、「その可能性は大いにある」と期待を示している。この研究の詳細は、「Science」9月6日号に掲載された。
Hong氏は、「この技術によって、将来的には採血のための静脈を見つけやすくなったり、レーザーによる刺青除去をより簡単に行えるようになったりする可能性がある。また、がんの早期発見や早期治療にも寄与するかもしれない。例えば、レーザーによりがん細胞や前がん細胞を除去する治療法があるが、その治療範囲は皮膚の表面に近い部分に限定されていた。この技術によって光の透過性を改善できるかもしれない」と米国立科学財団(NSF)のニュースリリースの中で説明している。なお、NSFは今回の研究の資金の一部を提供した。
Hong氏とともに研究を主導した米テキサス大学(UT)ダラス校物理学分野のZihao Ou氏は、UTのニュースリリースの中で、「生きた皮膚は、脂肪や細胞液、タンパク質などのさまざまな構成成分が光を散乱させるため、通常は透かして見ることはできない」と説明している。しかし、研究グループが水とタートラジンを混ぜたものをマウスの皮膚に塗布したところ、全てが変わった。「われわれは、青色光と紫外線を中心にほとんどの光を吸収する分子であるタートラジンを、光を散乱させる媒体である皮膚に組み合わせた。それぞれ単体ではほとんどの光を通さないが、両者を組み合わせることで、マウスの皮膚を透明にすることができた」とOu氏は言う。
なぜ食用色素の皮膚への塗布で皮膚が透明になるのか、理解に苦しむ人は少なくないだろう。これは、光を吸収するタートラジンを水に溶かすと、屈折率(物質が光をどのように曲げるかを示す指標)が変化し、脂質などの組織の成分の屈折率と一致するようになることで生じる。これにより、まるで霧が晴れるかのように、皮膚の「光散乱」の影響が抑えられて皮膚の下の構造が見えるようになるのだという。Ou氏は、「この背後にある基本的な物理学を理解している人には納得できることだが、それを知らない人には、まるで手品のように見えるだろう」と話す。
この水溶液をマウスの頭部に塗布すると、皮膚の下の血管の動きを観察することができた。また、腹部の皮膚に塗布したところ、皮膚の下にある臓器が見え、またマウスの消化管の機能や動きも観察できたという。
Ou氏は、「皮膚が透明になるまでに数分かかる。これは、顔に塗るクリームやパックの浸透の仕方と同様で、必要な時間は、その分子が皮膚に浸透する速度によって異なる」と言う。ただ、研究グループは、人間の皮膚はマウスの10倍も厚く、このことは間違いなく障壁になるとの見方を示す。また、塗布や注射などの投与方法のうち、どれが人間において最も効果的なのかも明らかになっていない。
研究グループは、たとえこの技術が人間の皮膚でうまくいかなかったとしても、医学研究全般には重要な意義があると考えている。「われわれの研究グループのメンバーの多くは学者であるため、この実験結果を見て最初に考えたことは、これが生物医学研究をどのように向上させるのかということだった」とOu氏は振り返る。その上で、「顕微鏡などの光学機器は生きている人間や動物に直接使用することはできない。しかし、今回の技術を使えば組織を透明な状態にすることができるため、より詳細なダイナミクスを観察できるようになる。このことは、生物学における既存の光学研究に根本的な変革をもたらすだろう」と話している。
[2024年9月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら