日中に眠気があり、活動への熱意を奮い起こすことが困難な高齢者は、そうした症状のない高齢者に比べて、認知症の前段階の一形態である運動認知リスク症候群(motoric cognitive risk syndrome;MCR)になるリスクが3倍以上高いことが、新たな研究で明らかになった。MCRは主観的認知機能の低下と歩行速度の低下が併存した状態を指す。米アルバート・アインシュタイン医科大学のVictoire Leroy氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に11月6日掲載された。
今回の研究でLeroy氏らは、認知症のない65歳以上の高齢者445人(平均年齢75.9歳、女性56.9%)を対象に、悪い睡眠の質とMCRとの関連を調査した。MCRは、標準化された質問票を通じて報告された認知機能の低下と、電子トレッドミルで記録された歩行速度の低下が同時に認められる場合と定義し、試験開始時と年に1回の追跡調査時に評価された。睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)で評価し、5点以下の「良い睡眠の質」と5点超の「悪い睡眠の質」に分類した。
試験開始時にMCRが認められなかった対象者は403人だったが、そのうちの36人が、中央値2.9年の追跡期間中にMCRに該当すると判定された。解析の結果、睡眠の質が悪い人は、睡眠の質が良い人と比べてMCRリスクが2.7倍高いことが明らかになった(ハザード比〔HR〕2.7、95%信頼区間〔CI〕1.2〜5.2)。しかし、抑うつ症状を考慮すると、この関連は統計学的に有意ではなくなった(調整HR 1.6、95%CI 0.7〜3.4)。完全調整モデルを用いた解析では、PSQIを構成する7つの要素のうち、日中の機能障害(過度の眠気と熱意の低下)だけが、MCRリスクと有意な関連を示した(調整HR 3.3、同1.5〜7.4)。一方、試験開始時にすでにMCRが認められた人では、MCRと悪い睡眠の質との間に有意な関連は認められなかった(オッズ比1.1、95%CI 0.5〜2.3)。
研究グループは、この研究では睡眠障害とMCRとの関連が示されただけで、因果関係が証明されたわけではないと指摘している。また、Leroy氏は、「さらなる研究により、睡眠障害と認知機能低下との関係、およびその関係にMCRが果たしている役割を調べる必要がある。さらに、睡眠障害をMCRおよび認知機能低下に結び付けるメカニズムを説明するための研究も必要だ」と述べている。
その一方で研究グループは、「それでも本研究結果は、良質な睡眠により老後の脳の健康が守られる可能性が高いことを示している」との見方を示す。Leroy氏は、「われわれの研究結果は、睡眠障害のスクリーニングの必要性を強調するものだ。睡眠に問題がある人は、その治療を受けることで、老後の認知機能低下を予防できる可能性がある」と話している。
[2024年11月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら