第VIII因子インヒビターのない重症血友病A患者において、レンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入した自己造血幹細胞(HSC)による遺伝子治療は、安定した第VIII因子発現が得られ、第VIII因子活性は末梢血中のベクターのコピー数と相関することが、インド・Christian Medical College VelloreのAlok Srivastava氏らの検討で示された。研究の成果はNEJM誌オンライン版2024年12月9日号に掲載された。
5例を対象とするインドの第I相試験
研究グループは、第VIII因子インヒビターのない重症血友病Aにおけるレンチウイルスベクターを用いた自己CD34陽性HSCによる第VIII因子発現遺伝子治療の安全性と有効性の評価を目的に、インドの単施設において第I相試験を行った(インド政府科学技術省などの助成を受けた)。
年齢22~41歳の男性患者5例を対象とした。骨髄指向性CD68プロモーターを有する新規F8導入遺伝子(ET3)を含むレンチウイルスベクター(CD68-ET3-LV)を用いて、自己HSCに導入用エンハンサーなし(第1群、2例)または導入用エンハンサーあり(第2群、3例)のいずれかで形質導入した。患者は、骨髄破壊的前処置後に遺伝子導入HSCの移植を受けた。
治療の安全性については、生着とレジメン関連毒性作用の評価を行い、有効性は第VIII因子活性と年間出血率で評価した。
5例の患者のCD68-ET3-LV導入自己CD34陽性HSCの投与量は、体重1kg当たり5.0×10
6~6.1×10
6であった。最終の製剤中のベクターコピー数は、第1群の2例が1細胞当たり1.0および0.6で、第2群の3例は1細胞当たり1.5、0.6、2.2だった。
全例で生着、インヒビターの発現はない
予想どおり全例で重度の血球減少が発現し、絶対好中球数の最低値は0.1×10
9/L未満、血小板数最低値は20×10
9/L未満であった。一方、全例で生着が得られ、好中球生着までの期間中央値は11日(範囲:10~12)、血小板生着までの期間中央値は15日(12~15)だった。重症好中球減少の期間中央値は8日(7~11)、重症血小板減少の期間中央値は3日(1~7)であった。
移植特性は第1群と第2群で差がなかった。5例のうち4例は、遺伝子治療後1~3ヵ月までには血球数が正常範囲に戻った。残りの1例(第2群)は、治療後14ヵ月には血球数が正常範囲となった。
好中球減少と血小板減少を除き、グレード2以上の有害事象はどの患者にも発現しなかった。最も頻度の高い有害事象は、吐き気(±嘔吐)であった。また、第VIII因子インヒビターは、製剤の投与後にどの患者にも発現しなかった。投与後4~22ヵ月目に行った遺伝子組み込み部位解析では、安全性に関する懸念は認めなかった。
これらのデータは、導入用エンハンサーがこのレンチウイルスベクターの遺伝子組み込みプロファイルに悪影響を及ぼさないことを示している。
治療前に年間20件以上の出血が0件に
内因性第VIII因子の発現は、第2群の1例で投与後18日目に早くも観察された。60日目の第VIII因子活性値は、第1群の2例では7.9 IU/dLおよび4.0 IU/dLであり、第2群の3例では28.0 IU/dL、14.2 IU/dL、36.6 IU/dLであった。
第1群の2例では、投与後28日目から最後の追跡調査までの第VIII因子活性の中央値は、5.2 IU/dL(範囲:3.0~8.7)および1.7 IU/dL(1.0~4.0)であり、末梢血ベクターコピー数はそれぞれ0.2および0.1であった。同様に、第2群の3例では、第VIII因子活性中央値は37.1 IU/dL(18.3~73.6)、19.3 IU/dL(6.6~34.5)、39.9 IU/dL(20.6~55.1)であり、末梢血ベクターコピー数はそれぞれ4.4、3.2、4.8だった。
遺伝子治療前に、5例は少なくとも年間20件の出血イベントを報告していたが、治療後の累積追跡期間81ヵ月(追跡期間中央値14ヵ月[範囲:9~27])の時点で、年間出血率は5例ともゼロであった。
著者は、「このfirst-in-human試験の初期結果は、血友病Aの遺伝子治療の新たな可能性を示すものである。すべての患者で、より若い時期に施行可能であり、第VIII因子の持続的発現をもたらすと考えられる。この予測が正しいかは、より多くの患者を対象とした長期の臨床試験で明らかになるだろう」としている。
(医学ライター 菅野 守)