認知症の行動・心理症状(BPSD)は、認知症患者とその介護者のQOLに悪影響を及ぼす。そのため、BPSDを予防するための修正可能なリスク因子を特定することは、非常に重要である。滋賀医科大学の田中 早貴氏らは、聴覚障害、社会的関係とBPSDとの関連を調査するため、横断的研究を実施した。Psychogeriatrics誌2025年1月号の報告。
対象は、2023年7月~2024年3月に日本のメモリークリニックを受診した患者179例。純音聴力検査および質問票によるインタビューを行い、医療記録をレビューした。聴覚障害の定義は、聴力がより良好な耳における純音聴力検査で測定された平均聴力レベル40dB以上とした。BPSDの有無および重症度の評価には、BPSD25Qベースの質問票を用いた。交絡因子で調整したのち、聴覚障害、社会的関係指標とBPSDの有無および重症度との関連を評価するため、部分回帰係数を算出する多重回帰分析を行った。
主な結果は以下のとおり。
・分析対象患者は144例(平均年齢:82.7歳、女性の割合:66.7%[96例])。
・多重回帰分析では、聴覚障害患者は、他人と同居している非聴覚障害患者と比較し、他人との同居(β=1.49、p=0.038)または独居(β=2.23、p=0.044)にかかわらず、BPSDの発生率が高かった。
・聴覚障害患者の定期的に会話している(β=1.51、p=0.027)または社会的交流に参加していない患者(β=2.02、p=0.020)は、同様の状況にある非聴覚障害患者と比較し、BPSDの発生率が高かった。
・同様に、聴覚障害患者の独居(β=4.54、p=0.033)および社会的交流が欠如した患者(β=3.89、p=0.020)では、BPSDの重症度に上昇が認められた。
著者らは「聴覚障害患者では、独居および社会的交流の欠如は、BPSDの発生および重症度の両方に関連していることが示唆された。さらに、聴覚障害患者は、同居家族や他人との会話を通じたコミュニケーションの増加により、BPSDの発生率が上昇する可能性がある。コミュニケーションによるストレスを軽減し、社会的つながりを維持することは、これらの課題を解決するうえで、不可欠であろう」と結論付けている。
(鷹野 敦夫)