運動による脳の機能に対する急性効果は、従来考えられていたよりも長く続く可能性を示唆するデータが報告された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のMikaela Bloomberg氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に12月10日掲載された。
これまでに、運動後の数分から数時間ほどの間、認知機能に対する急性効果が生じることが報告されてきている。しかし、その効果が運動を行った翌日まで持続するのか、また、睡眠不足などの影響はあるのかという点はよく分かっていない。Bloomberg氏らは、加速度計を用いて身体活動量や睡眠時間、睡眠の質を把握し、翌日の認知機能との関連性を検討した。
研究参加者は、認知機能障害や認知症の兆候のない50~83歳の成人76人で、8日間にわたり加速度計を装着して生活。注意力、記憶力、精神運動速度(思考・判断およびそれに基づく身体反応の速さ)などの認知機能を評価するためのテストが毎日実施された。加速度計のデータは、中~高強度身体活動(MVPA)、軽強度身体活動、座位行動、睡眠時間、レム睡眠(脳は覚醒状態に近く、体動はほとんどない睡眠)、徐波睡眠(深い睡眠である一方、体動が生じることもある睡眠)の時間の把握に用いられた。
解析の結果、前日のMVPAの時間が30分長いと、エピソード記憶(ある出来事とその時間や場所の記憶)のスコア(P=0.03)と作業記憶(何かの作業をするための短期的な記憶)のスコアが(P=0.01)有意に高いという関連が認められた。反対に、座位行動時間が30分長いと、作業記憶スコアが有意に低下していた(P=0.03)。前夜の睡眠時間や睡眠の質を調整しても、これらの結果は変わらなかった。
他方、前日のMVPAの時間とは関係なく、前夜の睡眠時間が6時間以上の場合、6時間未満と比較してエピソード記憶のスコアが有意に高く(P=0.008)、精神運動速度が有意に速い(P=0.03)という関連が観察された。また、前夜のレム睡眠が30分長いごとに注意力スコアが有意に高く(P=0.04)、徐波睡眠が30分長いごとにエピソード記憶スコアが高い(P=0.008)という関連も認められた。
MVPAの具体的な運動としては、Bloomberg氏によると、「心拍数が上がるような運動のことであり、早歩き、ダンス、階段を上がることなど」であって、「計画的な運動である必要はない」という。そして同氏は、「われわれの研究は、このようなMVPAの認知機能に対する効果発現時間はこれまで考えられていたよりも長く、運動後の数時間だけでなく翌日まで続く可能性があることを示唆している」と述べている。
この関連のメカニズムについて論文には、「運動は脳への血流を増加させ、さまざまな認知機能をサポートする神経伝達物質の放出を刺激することで、脳を活性化させることが知られている。神経伝達物質に対する影響は運動後少なくとも数時間は持続することが報告されているが、運動に伴う他の影響は、より長期間持続するのではないか」という考察が加えられている。ただし、論文の上席著者であるUCLのAndrew Steptoe氏は、「本研究のみでは、運動による脳に対する急性効果が、脳の長期的な健康に寄与するかどうかは分からない。運動が認知機能の低下を遅らせ、認知症のリスクを抑制する可能性を示唆するエビデンスは少なくないが、いまだ議論の余地が残されている」と、慎重な姿勢を取っている。
[2024年12月11日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら