小児期のチームスポーツへの参加には、子どもの頭脳に明晰さをもたらす特別な力があるかもしれない。サッカーやバレーボールのチームに所属している子どもは、スポーツをしない子どもや個人スポーツしかしない子どもに比べて、実行機能のテストスコアが高いことが新たな研究で示された。実行機能とは、組織化や物事の記憶、決断、集中力の維持に必要な思考スキルのことをいう。フローニンゲン大学医療センター(オランダ)のLu Yang氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月17日掲載された。
米ウィスコンシン大学マディソン校整形外科学教授のAlison Brooks氏は、今回の研究に関する付随論評の中で、「科学的データは、サッカーなどのチームスポーツをすることが、最も重要な生きる力の一つである実行機能を向上させることを示している」と述べている。
Yang氏らは今回、880人の子ども(女子470人、実行機能測定時の平均年齢11.1歳)を2006年4月から2017年12月まで追跡したデータを調べた。子どもは5~6歳に身体機能、10~11歳に実行機能の評価を受けていた。子どもが定期的に行っていたチームスポーツは、サッカーやバレーボールなど、個人スポーツは武術やスイミング、体操などであった。
その結果、5~6歳時の中高強度の身体活動は、10~11歳時の実行機能に有意な影響を与えないことが示された。しかし、10~11歳時にチームスポーツを行っていた子どもでは、個人スポーツを行っていた子どもに比べて全体的な実行機能(スコアの平均群間差−3.03)、行動調整機能(同−3.39)、およびメタ認知能力(同−2.55)が優れていることが示された。また、個人スポーツのみを行っていた子どもに比べて、個人スポーツとチームスポーツの両方を行っていた子どもは、実行機能のスコアがより高かった(同−2.66)。
では、チームスポーツを行うことは、どのように子どもの意思決定や組織化などの能力を高め得るのだろうか。Yang氏らは、「チームスポーツでは、チームメイトや対戦相手と予測のつかないやりとりが発生するため、子どもに高い認知的要求を課すことになる」と話す。これにより、選手には素早く柔軟な対応を取る必要性が生じ、それが実行機能を高める練習の場となっている可能性があると推測している。
一方、Brooks氏は付随論評の中で、オランダの子どもはチームスポーツへの参加率が高く、この研究の対象となった子どものうち、全くスポーツに参加していなかった子どもの割合はわずか6.3%であったことを指摘している。ただし、米国の子どももチームスポーツから同じような認知面への恩恵を受けられるとBrooks氏は考えている。同氏は、2019年に米国小児科学会(AAP)が発表した、子どもの組織化されたスポーツの価値に関する報告書を紹介している。この報告書ではチームスポーツが、「前向きな自尊心と仲間との関係、不安や抑うつの軽減、良好な骨の健康状態」に加え、「より健康的な心臓や肥満度の低下」、「認知能力と学業成績の向上」にも効果のあることが明らかにされているという。
残念ながら、このようなメリットを享受できる米国の子どもは極めて少ない。Brooks氏はその理由を、「2022年の全米小児健康調査によると、6~17歳の小児のうち、スポーツチームに参加しているのは53.8%に過ぎないからだ」と述べている。同調査のデータからは、米国では13歳になると、スポーツを全くしない子どもの割合は70%に上ることも明らかにされている。
また、この数値は貧困層の家庭やマイノリティーの家庭の子どもではさらに高いことが示されており、スポーツに参加するための費用が大きな要因となっている可能性があるとBrooks氏は指摘している。さらに、青少年のスポーツの「プロ化」を求める圧力が強まりつつあり、スポーツへの参加が魅力を失いつつある。Brooks氏は、「スポーツを始めること、また継続的にスポーツに参加することを阻む障壁を設けることで、われわれは子どもから、人間が持つ本来の潜在能力を発揮する機会を奪ってしまっているのかもしれない」と述べている。
[2024年12月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら