新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最中に、急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に減少していたことが明らかになった。住民の飲酒量が多いことで知られる高知県のデータを解析した結果であり、高知大学医学部環境医学の南まりな氏、災害・救急医療学の宮内雅人氏らによる論文が、「Alcohol」に9月20日掲載された。
COVID-19パンデミックにより人々の生活が一変し、それにより救急搬送される患者の傾向にも変化が生じている。例えば交通事故による外傷が減り、ストレスが発症に関与しているたこつぼ心筋症が増えたことなどが報告されている。一方、飲酒行動に関しては、飲食店の時短営業や入店制限などによる飲酒機会の減少と、ストレス負荷による自宅での飲酒量の増大という相反する影響が考えられるが、南氏らが2020年春というパンデミック初期に高知県で行った研究では、急性アルコール中毒による救急搬送が減少していたことが明らかになっている。今回の研究では、パンデミックが長期化した以降もそのような傾向が継続しているのか否かを検証した。
この研究には、高知県救急医療・広域災害情報システム「こうち医療ネット」のデータが用いられた。2019~2021年の救急搬送の記録12万49件のうち、データ欠落、および急性アルコール中毒患者が発生していない10歳未満と80歳以上を除外した6万2,138件を解析対象とした。このうち926件(1.5%)が急性アルコール中毒によるものだった。
年次推移を見ると、2019年は2万2,289件中412件(1.9%)が急性アルコール中毒によるもので、2020年は1万9,775件中268件(1.4%)、2021年は2万74件中246件(1.2%)だった。全体として、急性アルコール中毒による救急搬送は、性別で比較した場合は男性に多く(66.1%)、年齢層では20代が最も多くを占めていた(37.2%)。
ポアソン回帰モデルにて、2019年を基準とする急性アルコール中毒による救急搬送件数の発生率比(IRR)を検討すると、2020年はIRR0.78(95%信頼区間0.67~0.91)と有意に低く、2021年もIRR0.73(同0.63~0.86)であり有意に低値だった。つまり、パンデミック初期に認められた急性アルコール中毒による救急搬送件数の減少は、パンデミックが長期化した2年目にも継続していたことが明らかになった。
著者らは本研究について、救急搬送以外の手段で受診した急性アルコール中毒患者も存在する可能性があること、県民の酒量が多く飲酒に寛容な高知県での調査であり、解釈の一般化が制限されることなどの留意点を挙げている。ただし後者については、「研究の限界点であると同時に、特異な飲酒文化で得られた貴重なデータでもある」と述べている。また、「パンデミックによって急性アルコール中毒による救急搬送が減少したという事実は、換言すれば、パンデミック以前の人々の飲酒行動に問題があったことを示唆している」との考察を加えている。
[2023年11月13日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら