子どもの頃に両親から十分なケアを受けていなかったり、過保護な環境で育てられたりすることと、成人期の糖尿病リスクとの関連を示唆する研究結果が報告された。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の柴田舞欧氏らが、久山町研究参加者のデータを横断的に解析した結果であり、詳細は「BMC Endocrine Disorders」に10月12日掲載された。
十分でないケアまたは過保護といった「不適切な養育」が、成人後の肥満などと関連のあることが既に報告されている。ただし、不適切な養育と糖尿病の関連の有無はよく分かっていない。柴田氏らはこの点について、日本を代表する地域住民対象疫学研究である「久山町研究」のデータを用いて検討した。
2011年に健診を受けた40歳以上の住民2,250人のうち研究参加に同意した793人から、データ欠落者を除外した710人(男性38.0%、糖尿病有病率14.9%)を解析対象とした。小児期の子育てスタイルは、自記式アンケート(Parental Bonding Instrument;PBI)を用いて、生後16年間の状況について回答してもらった。PBIは25項目から成り、父親と母親から受けた「不十分なケア」や「過保護」の程度をスコア化して評価する。本研究では各スコアの中央値をカットオフ値として群分けし比較した。
まず、父親の養育スタイルについて、ケアが適切であった場合を基準として、不十分だった場合の糖尿病有病率を、交絡因子〔年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・脂質異常症、糖尿病家族歴、婚姻状況、教育歴、主観的経済状況、ストレスホルモン(コルチゾール)レベル〕を調整して比較すると、オッズ比(OR)1.27(95%信頼区間0.79~2.05)であり、有意な関連は見られなかった。しかし、過保護だったか否かの比較では、OR1.71(同1.06~2.77)となり、父親から過保護に育てられた人の糖尿病有病率が有意に高かった。
一方、母親の養育スタイルとの関連について同様の交絡因子で調整して比較すると、ケアが不十分だった場合はOR1.61(1.00~2.60)、過保護であった場合はOR1.73(1.08~2.80)であって、いずれも有意な関連が認められた。
母親の養育スタイルが、適切なケアで過保護でない群〔以下、「最適な養育」〕を基準とすると、ケアが不十分で過保護な群〔以下、「不適切な養育」〕はOR1.94(1.12~3.35)と、成人後に糖尿病を有するオッズ比が2倍近くとなった。なお、ケアが不十分のみ、または過保護のみの場合は、いずれも有意なオッズ比上昇は見られなかった。また、父親の養育スタイルとの関連については、最適な養育と不適切な養育との比較で、有意なオッズ比上昇は見られなかった。
次に、父親と母親双方の養育スタイルが最適であった群を基準とする比較を実施。すると、父親と母親の養育スタイルがともに不適切であった群は交絡因子調整後、OR2.12(1.14~3.95)と2倍を超えるオッズ比が示された。なお、父親または母親いずれか一方のみが不適切な養育であった群はOR1.23(0.58~2.61)で、有意なオッズ比上昇は見られなかった。同様に、父親および母親の養育が不適切でも最適でもない群(ケアが不十分または過保護のいずれかのみに該当)はOR1.03(0.52~2.04)であり、有意なオッズ比上昇は見られなかった。
著者らは本研究が横断研究であり因果関係の解釈は制限されることや、健診受診者の3分の2が本研究への参加に同意せず悉皆性が高いとは言えないこと、残余交絡が存在する可能性のあることなどの限界点があるとしている。その上で、「幼少期の不十分なケアや過保護が成人後に糖尿病を有することと関連しており、特に両親から不適切な養育を受けた場合にはその関連性がより顕著になる」と結論付け、「最適な子育てのための保護者に対する社会的サポートが、糖尿病予防のための公衆衛生対策の手段となり得るのではないか」と付け加えている。
なお、両親の養育スタイルが糖尿病リスクに関連するメカニズムとしては、慢性的なストレスにより甘い物を口にしやすくなることや、自尊心および社会的スキルの低下などが媒介因子として働くのではないかとの考察が述べられている。
[2023年11月27日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら