高齢化により心不全の有病率は上昇し、マルチモビディティ(多疾患併存)の状態にある患者が増えている。このような患者を対象に、看護師が主導し多職種介入を行ったところ、死亡率が有意に低下したという結果が示された。これは大阪大学大学院医学系研究科老年看護学教室の竹屋泰氏、齊前裕一郎氏らによる研究結果であり、「American Heart Journal Plus: Cardiology Research and Practice」に1月20日掲載された。
異なる専門分野を有する医療従事者が関与する多職種連携は、患者に関わる職種の数が多い(multidisciplinary intervention)だけでは不十分で、多職種が互いに連携して協働する(interprofessional work)必要がある。看護師は、患者の疾患と生活の両方に携わり、24時間体制でケアを提供し、他の職種との関わりも多いことから、看護師主導による多職種連携の有効性についてはこれまでにも研究されている。しかし、複数の併存疾患を有し、複雑な管理を要する患者に対する効果は明らかになっていなかった。
そこで著者らは、急性期病院に入院し、チャールソン併存疾患指数(CCI)が2点以上の心不全患者を対象に、看護師主導による多職種連携の導入前後で患者の死亡率や緊急入院率を比較する後方視的症例対照研究を行った。導入後の2017年4月~2020年3月に入院した患者351人を多職種連携群、2014年4月~2016年3月の患者412人を通常ケア群とし、各群から年齢・性別・NYHA心機能分類でマッチングさせた200人ずつ(平均年齢80歳、男性62%)を評価対象とした。
導入された多職種連携は3ステップからなる。ステップ1では入院3日以内に看護師がスクリーニングを実施し、日常生活動作(ADL)低下リスク、在宅医療や福祉制度の必要性など、退院後の問題を評価。ステップ2はスクリーニング基準を満たす患者への標準的支援であり、入院7日以内に看護師が情報を収集。看護師がファシリテーターとなり多職種カンファレンスを行い、退院支援の必要性などを検討。退院目標を策定し、患者と家族の同意を得て、目標達成に向けて介入した。ステップ3は、標準的支援では不十分と看護師が判断した場合に実施し、看護師が必要と判断した多職種が関与。再入院のリスクが高い場合や在宅医療が必要な場合には、在宅医や訪問看護師と協働した。
対象患者のNYHA心機能分類の内訳は、クラスIが32.5%、クラスIIが46.5%、クラスIIIが20.5%、クラスIVが0.5%であり、CCIは平均6点だった。多職種連携群では通常ケア群と比べて、ポリファーマシー(6種類以上の薬剤を使用)および医療ソーシャルワーカーの関与の割合が有意に低く、訪問看護や在宅医への移行の割合が有意に高かった。要介護度や入院期間については両群間で有意差はなかった。
また、全ての死因による死亡リスクは、多職種連携群の方が通常ケア群よりも有意に低いことが明らかとなり(ハザード比0.45、95%信頼区間0.29~0.69)、退院後1年時点での死亡率には7%の有意差が認められた(9%対16%)。退院後6週間以内の緊急入院のリスクも、多職種連携群の方が有意に低かった(ハザード比0.16、95%信頼区間0.08~0.30)。
今研究における多職種介入の特長として著者らは、疾患に加え患者の生活機能に精通した看護師がファシリテーターとなり、適時適切な専門職と連携する、入院初期から退院まで、1人の入退院支援看護師が継続的に関与する、必要に応じ、患者の同意を得て地域の専門職と情報を共有・連携するといった、看護師主導の包括的な多職種連携を挙げている。研究の結論として、「看護師主導の多職種連携により、心不全と複数の併存疾患を有する患者の死亡率が低下する可能性がある」と述べている。
[2024年5月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら