体調不良を抱えたまま勤務する「プレゼンティーズム」は、欠勤するよりも大きな損失につながるとして注目されている。新たに日本のタクシー運転手を対象とした研究が行われ、プレゼンティーズムの程度が大きいほど交通事故リスクが高まることが明らかとなった。産業医科大学産業生態科学研究所環境疫学研究室の藤野善久氏、大河原眞氏らによる前向きコホート研究の結果であり、「Safety and Health at Work」に4月16日掲載された。
これまでに著者らは救急救命士を対象とした研究を行い、プレゼンティーズムの程度が大きいこととヒヤリハット事例発生との関連を報告している。今回の研究では、救急医療と同様に社会的影響の大きい交通事故が取り上げられた。その背景として、タクシー運転手は不規則な運転経路、時間厳守へのプレッシャーなどから事故を起こしやすいことや、車内で長時間を過ごすため運動不足や腰痛につながりやすく、睡眠や健康の状態も悪くなりやすい労働環境にあることが挙げられている。
著者らは今回の対象を福岡県のタクシー会社に勤務するタクシー運転手とし、2022年6月のベースライン調査時、産業医科大学が開発した「WFun」(Work Functioning Impairment Scale)という指標を用いてプレゼンティーズムを評価した。WFunは7つの質問(「ていねいに仕事をすることができなかった」など)により労働機能障害を判定するもので、その得点からプレゼンティーズムの程度を「問題なし」「軽度」「中等度以上」に分類した。2023年2月に追跡調査を行い、回答時点から過去3カ月間の擦り傷や軽い接触など(会社に報告していないものも含む)の件数を「軽微な交通事故」として評価した。
運転時間が週に10時間未満だった人などを除き、428人を解析対象とした。年齢中央値は67(四分位範囲60~72)歳、男性の割合は93.2%。プレゼンティーズムの程度は、問題なしが343人(80%)、軽度が72人(17%)、中等度以上が13人(3%)だった。
1件以上の軽微な交通事故の発生割合は、プレゼンティーズムの程度が問題なしの人では16%、軽度の人では17%、中等度以上の人では23%だった。性別、年齢、運転経験の影響を統計的に調整した上で、交通事故とプレゼンティーズムとの関連を調べた結果、プレゼンティーズムの程度が大きいほど、軽微な交通事故のリスクが高くなることが明らかとなった(傾向性P=0.045)。
今回の研究に関連して著者らは、これまで、突然の意識不明や死亡につながる脳血管疾患や心疾患などの重大な疾患が注目されてきたが、これらを原因とする交通事故の割合は、職業運転手による交通事故のうちの一部でしかないと説明。体調不良などによる交通事故は過少報告されている可能性が高く、見過ごされがちであることを指摘している。また、タクシー運転手の給与体系の多くが歩合制であることも体調不良のまま勤務してしまう要因となっていることを挙げ、「交通事故防止のため、職業運転手に対する社会経済的支援を強化し、健康管理を優先することが重要だ」と述べている。
[2024年5月27日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら