重篤な低血糖により糖尿病患者の死亡リスクが増大、ACCORD試験の疫学的解析

提供元:ケアネット

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公開日:2010/01/29

 



ACCORD試験のレトロスペクティブな疫学的解析の結果、2型糖尿病患者では重篤な症候性低血糖により、血糖低下療法の強度にかかわらず死亡リスクが増大するが、1回以上の低血糖エピソードのある患者では強化血糖低下療法の方が標準的血糖低下療法よりも死亡リスクは低いことが示された。ACCORD試験は、心血管リスクが高度な2型糖尿病患者では血糖値を積極的に正常化させることでリスクを低減できるとの仮説を検証するために実施されたが、平均フォローアップ期間3.5年の時点で強化血糖低下療法の方が有意に死亡率が高いことがわかり、2008年2月に中止された。アメリカ国立衛生研究所(NIH)心肺血液研究所(NHLBI)のDenise E Bonds氏らが、BMJ誌2010年1月16日号(オンライン版2010年1月8日号)で報告した。

ACCORD試験登録患者データを用いた後ろ向きの疫学解析




研究グループは、ACCORD試験の登録患者データを用いて低血糖と死亡率の関連を検討するレトロスペクティブな疫学的解析を行った。

ACCORD試験の対象は、スクリーニング時のHbA1C値≧7.5%の2型糖尿病患者で、心血管疾患を有する40~79歳の患者、あるいは潜在疾患が証明されるか2つ以上の心血管リスク因子を有する55~79歳の患者であった。

強化血糖低下療法群はHbA1C値<6.0%を、標準的血糖低下療法群はHbA1C値7.0~7.9%を目標に治療が行われた。

重篤な低血糖により両群とも死亡リスクが増大、低血糖だけでは死亡率の差は説明できない




解析の対象となったのは、ACCORD試験の登録患者10,251例のうち、通常のフォローアップ期間中に少なくとも1回の低血糖の評価が行われた10,194例であった。

強化療法群の非補正年間死亡率は、低血糖[血糖値<2.8mmol/L(50mg/dL)]のエピソードがない患者が1.2%(201/16,315人・年)であったのに対し、少なくとも1回以上の低血糖エピソードがみられ治療および補助を要する患者では2.8%(53/1,924人・年)と有意に高値を示した(補正ハザード比:1.41、95%信頼区間:1.03~1.93)。標準療法群でも同様のパターンがみられた[年間死亡率:1.0%(176/17,297人・年) vs. 3.7%(21/564人・年)、補正ハザード比:2.30、95%信頼区間:1.46~3.65]。

低血糖エピソードがあり治療および補助を要する患者の解析では、強化療法群と標準療法群で死亡リスクに有意な差は認めなかった(補正ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.46~1.23)。低血糖エピソードがあり治療のみを要する患者では、強化療法群の方が標準療法群よりも死亡リスクが有意に低かった(補正ハザード比:0.55、95%信頼区間:0.31~0.99)。

ACCORD試験では、強化療法が中止となるまでに451例が死亡し、そのうち1例は明らかに低血糖が原因と判定された。

著者は、「重篤な症候性低血糖は、強化療法群、標準療法群の双方において死亡リスクを増大させた。しかし、低血糖エピソードのある患者では標準療法群よりも強化療法群で死亡リスクが低かった」と結論したうえで、「重篤な症候性低血糖の発現だけでは、ACCORD試験の強化療法群における死亡率の増加は説明できない」と指摘している。

(医学ライター:菅野守)