男性が政治的暴力に曝露されると、女性パートナーへの身体的および性的な暴力が増加することが、アメリカ・ミネソタ大学医療格差研究プログラムのCari Jo Clark氏らが実施した調査で明らかとなった。戦争、国家の弾圧、拷問、暴力的な政治紛争などの集団的な暴力への曝露は、ジェンダーに基づくさまざまな暴力のリスクを増大させることが指摘されている。国連安全保障理事会決議1325(2000年)は、このような武力抗争下における性的暴力からの女性および少女の保護を要請している。Lancet誌2010年1月23日号掲載の報告。
被占領パレスチナ地域の既婚女性3,510人に関する横断的研究
研究グループは、被占領パレスチナ地域において、政治的暴力によって親密なパートナー間における男性の女性に対する暴力が増加しているか否かを評価する横断的研究を実施した。
調査は、2005年12月18日~2006年1月18日までにパレスチナ中央統計局によって行われた。無作為に選択された4,156世帯から15~64歳の婚姻歴のある女性3,815人が登録された。解析はその時点で婚姻状態にある女性3,510人(92%)について行われた。
政治的暴力への曝露とは、当該女性の夫が直接的に曝露した場合および夫の家族の経験を介して間接的に曝露した場合とされ、曝露による当該世帯への経済的影響とパートナーへの暴力の関連についても検討した。補正多項式ロジスティック回帰モデルを用いて政治的暴力と親密なパートナーへの暴力との関連のオッズ比を算出した。
身体的暴力、性的暴力とも増加、ガザ地区では経済的影響も暴力の原因に
政治的暴力により親密なパートナーへの暴力のオッズが有意に増大した。夫が直接的な政治的暴力に曝露した場合は、間接的な暴力に曝露した場合に比べパートナーに対する身体的暴力のオッズ比が1.89、性的暴力のオッズ比は2.23に達した。
夫が間接的な政治的暴力に曝露した場合は、間接的な暴力にも曝露しなかった場合に比しパートナーに対する身体的暴力のオッズ比は1.61、性的暴力のオッズ比は1.97であった。被占領地域のうちガザ地区においてのみ、暴力への曝露による経済的な影響がパートナーへの暴力のオッズを上昇させていた。
著者は、「男性の政治的暴力への曝露は女性パートナーへの暴力のオッズを増大させ、数多くの心的外傷により健康状態が不良となる」と結論し、「紛争地域において心理社会的介入を行う場合は、政治的暴力について広範に評価すべきである」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)