タモキシフェン(TAM)治療中の乳がん女性にパロキセチン(商品名:パキシル)を併用投与すると、乳がん死のリスクが増大することが、カナダSunnybrook医療センターのCatherine M Kelly氏らが実施したコホート研究で示された。乳がんの内分泌療法の標準治療薬であるTAMは、チトクロームp450 2D6(CYP2D6)によって活性代謝産物であるエンドキシフェンに変換されるプロドラッグである。TAM投与を受けている乳がん女性にはパロキセチンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が広く用いられているが、SSRIはCYP2D6を阻害するためエンドキシフェンの産生が低下してTAMの効果が減弱する可能性が指摘されていた。BMJ誌2010年2月13日号(オンライン版2010年2月8日号)掲載の報告。
TAM+SSRI併用乳がん患者の治療終了後の乳がん死を、併用期間の長さ別に解析
研究グループは、SSRIがCYP2D6を介する生物活性を阻害することでTAMの効果を減弱する可能性について検討するために、地域住民ベースのコホート研究を行った。
対象は、1993~2005年までにオンタリオ州に居住した66歳以上のTAM治療を受けている乳がん女性で、SSRI[パロキセチン、fluoxetine、sertaline、フルボキサミン(商品名:デプロメール、ルボックス)、citalopram、venlafaxine)]を1剤併用投与された患者であった。
TAM治療完遂後の乳がんによる死亡リスクを、TAM治療期間中のSSRI併用期間の長さで分類して解析を行った。
パロキセチン併用期間が長くなるにしたがって乳がん死亡率が有意に増大
TAMとSSRIを併用投与された乳がん患者2,430例のうち、平均フォローアップ期間2.38年の時点で374例(15.4%)が乳がんが原因で死亡した。
年齢、TAM投与期間、他の交絡因子で補正後のTAM+パロキセチン(不可逆的なCYP2D6阻害薬)群の乳がん死亡率は、パロキセチン併用期間が長くなるにしたがって有意に増大した(TAM治療期間におけるパロキセチン併用期間の割合が25%の患者の乳がん死亡率:24%、併用期間割合50%の患者:54%、併用期間割合75%の患者:91%、p<0.05)。
これに対し、他のSSRIではこのような乳がん死リスクの増大は認めなかった。
パロキセチン群の併用期間の割合の中央値は41%であった。この場合、TAM投与終了後5年以内に、19.7例に1例がパロキセチンの影響によって乳がんで死亡すると推算された。併用期間がさらに長くなれば、乳がん死リスクも増大すると予測される。
著者は、「TAM治療中の乳がん患者にパロキセチンを使用すると乳がん死リスクが増大する。この知見は、パロキセチンは乳がん患者におけるTAMのベネフィットを損なうという仮説を支持するものである」と結論し、「TAMの代謝活性におけるCYP2D6の重要性が改めて示された。TAMは年齢を問わずホルモン受容体陽性乳がん女性の重要な治療薬であり、TAM治療中の乳がん患者に抗うつ薬を併用する場合は、CYP2D6への作用の少ない薬剤を選択すべきである」と指摘する。
(菅野守:医学ライター)