重度の脳損傷を受けた意識障害患者との会話、機能的MRIの応用で可能?

提供元:ケアネット

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公開日:2010/03/03

 



集中治療技術の進展により、重度の脳損傷を受けても生存する患者が増加しているが、良好な回復を示す患者がいる一方、一部は植物状態のままで、大半の患者はこん睡状態から目覚めても再現性のある意思疎通ができる状態にまでは回復しない。2002年にAspen Neurobehavioral Conference Work Groupが、意識障害患者の枠組みに「最小意識状態」(minimally conscious state;MCS)という「意思表示を行動で示せない患者」の区分を加えた。しかしベッドサイド検査だけでは鑑別診断が難しく誤診率は約40%に及ぶという。そこで英国医学研究審議会(MRC)認知・脳科学ユニットのMartin M. Monti氏らは、機能的MRIを用いた意思疎通を図れるかを試験した。NEJM誌2010年2月18日号(オンライン版2010年2月3日号)掲載より。

54例の意識障害患者に機能的MRIを試験




Monti氏らは、英国のケンブリッジとベルギーのリエージュにある2つの主要なメディカルセンターで、54例の意識障害患者(植物状態23例、最小意識状態31例)を対象に機能的MRIを用いた試験を実行した。

まず、健常者に対する試験で明らかになっている、心象作業の際の脳血流動態が活発になる部位が、運動をイメージする、場所をイメージする各作業の場合で異なることを活用し、被験者に各心象作業(運動しているイメージ、場所をイメージ)をするよう質問をなげかけ、脳血流動態をMRIでスキャンし脳活動の調整が可能かを判定した。

次に、その心象作業を利用してコミュニケーションが可能かを検証した。「はい」「いいえ」で答えられる簡単な質問を投げかけ、質問に対し「はい」なら、先と同じ運動心象作業を、「いいえ」なら場所の心象作業をするよう指示をし、脳活動の再現性を評価するという方法である。

植物状態と判定されていた患者とのコミュニケーションに成功




結果、54例中5例の患者が脳活動を調整することが可能だった。5例とも外傷性脳損傷を受けた患者で4例は植物状態と判定(残り1例はMCS)されていた患者だった。

5例のうち3例は、ベッドサイド検査でもいくつかの認知していることを示すサインが確認できた。2例には確認できなかった。

また心象作業を利用した「はい」「いいえ」のコミュニケーションの方法は、1例の患者(植物状態と判定されていた)で可能だった。その患者とのコミュニケーションは、それ以外の方法では全くできなかった。

Monti氏は「少数ではあったが、植物状態、最小意識状態の患者に、いくつかの認知を反映する脳活動があることが証明された。このことは、臨床検査を入念に行えば意識状態の再分類化がなされる患者もいることを意味する。我々が開発した方法は、反応がないと思われる患者との基本的コミュニケーションの確立に役立つだろう」と結論している。

(医療ライター:武藤まき)