イギリスで国家プロジェクトとして進められている電子化された診療記録の共有化は、そのベネフィットが当初の予想よりも小さく、実際に利用する臨床医は少ないことが、Barts and The London School of Medicine and DentistryのTrisha Greenhalgh氏らの調査で明らかとなった。電子化された診療記録が共有されれば、多彩なケアの利用を可能にする核心的な情報の発信が可能となり、医療の質、安全性、有効性の改善につながるとの期待があるが、500万人以上の人口を抱える国で、国レベルの電子患者記録の共有化に成功した例はないという。2007年、イギリス保健省は診療概要記録(SCR)の国レベルでの共有化を推進するプログラムを開始し、さしあたり救急と予約外診療での運用が始まっている。BMJ誌2010年6月26日号(オンライン版2010年6月16日号)掲載の報告。
SCRの集積を進める国家プラグラムを評価
研究グループは、電子化された診療概要の記録の集積を進める国家プログラム(English National Health Service 2007-10.)の評価を行った。
SCRは、“National Programme for Information Technology”の一環として導入された。SCRの評価は国の政策との関連で第一線で遂行されるものとみなされ、3地域で実施された。
国レベルで集めたデータおよび時間外や予約なしの受診が可能なプライマリ・ケア施設から収集された、41万6,325例のデータが集積され解析された。政策立案者、管理者、臨床医、ソフトウェア供給者などへの140のインタビュー、214の診療の観察記録を含む2,000ページの民族誌的現場記録、3,000ページにおよぶ文書が、テーマ別および解釈的に解析された。
SCRの効果は当初の予測より小さく、利用頻度も低い
2007~2010年に、SCRプログラムは社会的、技術的に膨大な課題に直面し、これを遂行するには高度な作業負荷を要し、複雑な相互依存が存在することが判明した。
予約なしのプライマリ・ケア施設でSCRが利用できる環境を構築しても、これにアクセスして実際に使用する臨床医は多くないことが示された。SCR関連のベネフィットは、当初の予測に比べると小さく、確実性が低かった。
プログラムの技術的側面や運営上の問題は、SCR導入の政治的、職業的、臨床的、個人的な意図などの主観的で状況的な論点と切り離せないことが示された。
著者は、「電子化された患者の診療概要の記録の導入には一定の進展がみられるが、重大な社会的、技術的障壁がその広範な採用を阻んでいる。現時点でのベネフィットは当初の予想よりも小さく、不確実であった」とまとめている。
(菅野守:医学ライター)