飲用水に含まれるヒ素が死亡率を増大、バングラデシュの調査

提供元:ケアネット

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公開日:2010/08/05

 



長期にわたる飲用水を介したヒ素曝露が死亡率を増大させていることが、アメリカ・シカゴ大学のMaria Argos氏らがバングラデシュで実施したコホート研究(HEALS試験)で示された。バングラデシュ国民の350~770万人を含め、世界で数百万の人々が飲用水を介して慢性的にヒ素に曝露されている。しかし、これまでヒ素曝露と死亡率との関連について個人レベルのデータを用いてプロスペクティブに検討した調査はなかったという。Lancet誌2010年7月24日号(オンライン版2010年6月19日号)掲載の報告。

ヒ素曝露量との死亡の関連を検討する前向きコホート研究




HEALS試験の研究グループは、バングラデシュ国民を対象に、長期的および直近のヒ素曝露状況の変動と、全死亡や慢性疾患死との関連について評価するために、プロスペクティブなコホート研究を実施した。

バングラデシュ・アライハザール(Araihazar)在住の地域住民1万1,746人(18~75歳)を抽出し、訓練を受けた医師が面接して臨床的な評価を行った。参加者の登録は2000年10月~2002年5月に行い、2年に1回のフォローアップを実施した。

2009年2月までに得られたデータにつき、交絡因子を補正のうえCox比例ハザードモデルを用いてヒ素曝露量別の死亡率のハザード比(HR)を算出した。

井戸水のヒ素含有量、毎日のヒ素曝露量、尿中総ヒ素濃度と死亡率が相関




2000年10月~2009年2月の間に407人の死亡が確認された。多変量解析により、ベースライン時にヒ素含有量が10.0μg/L以下の井戸水を飲用している住民との比較において、含有量10.1~50.0μg/L、50.1~150.0μg/L、150.1~864.0μg/Lの井戸水を飲用している住民の全死亡の補正HRを算出したところ、それぞれ1.34(95%信頼区間:0.99~1.82)、1.09(同:0.81~1.47)、1.68(同:1.26~2.23)であり、ヒ素曝露が死亡率を増大させていることが示唆された。

同様に、毎日のヒ素曝露量や尿中総ヒ素濃度の解析でもヒ素曝露と死亡率の関連が示された。一方、直近のヒ素曝露量の変動(2年毎に測定された尿中総ヒ素濃度の差)は死亡率にさほど影響を及ぼさなかった。

著者は、「飲用水を介した長期的なヒ素曝露が死亡率の増大と関連することが示された」と結論し、「このコホートのフォローアップデータは、ヒ素曝露の長期的な影響や曝露量の変動の影響を評価する際に使用できるだろう。ヒ素曝露による健康被害を軽減する方策の立案と医療資源の確保が喫緊の課題である」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)