抗てんかん薬と自殺との関連について、てんかん患者においては自殺リスク増大との関連は認められなかったこと、一方で、うつ病患者、あるいはてんかん、うつ病、双極性障害のいずれでもない患者で抗てんかん薬を服用していた患者ではリスク増大が認められたことが、スペイン・Risk MR Pharmacovigilance ServicesのAlejandro Arana氏らにより明らかにされた。これまでに行われた臨床試験のメタ解析の結果では、抗てんかん薬と自殺傾向(自殺念慮、自殺行動、または両方)との関連が示されていたが、Arana氏らは、一般集団を代表する患者データベースを用い、ケースコントロール試験にて、抗てんかん薬服用の有無と自殺関連イベント(自殺未遂、自殺既遂)との関連を解析した。NEJM2010年8月5日号掲載より。
英国民の患者データベースで服薬有無と自殺との関連を解析
Arana氏らが解析コホートとしたのは、英国の一般集団を代表する患者データベース「The Health Improvement Network(THIN)」(診療所医師による日々の臨床記録が集約、患者670万人以上を含む)で、そのうちてんかん、うつ病、双極性障害患者の治療データ(1988年7月1日~2008年3月31日に6ヵ月以上治療)を取得し、抗てんかん薬治療の有無を調べ追跡した。また、同コホートから、各症例患者にマッチ(年齢、性、治療内容)する5例ずつを選定しコントロール(対照)群とした。
そのうえで抗てんかん薬使用の有無と自殺関連イベント発生率を調べ、交絡因子を補正し、ロジスティック回帰分析法でオッズ比を算出した。
うつ病での服用者、疾患を有さない服用者ではリスク増大
解析コホートは合計513万795例だった。このうち、いずれの疾患も有さず抗てんかん薬も未服用だったコホート(基準群:451万4,366例)の自殺関連イベント発生率は、10万人・年につき15.0(95%信頼区間:14.6~15.5)だった。これに対し同服用していたコホート(7万7,319例)の同発生率は39.4(32.6~47.1)だった。
一方、てんかん患者では、未服用者(1万6,120例)は38.2(同:26.3~53.7)、服用者(3万9,325例)は48.2(同:39.4~58.5)だった。
補正後解析の結果、抗てんかん薬の服用と自殺関連イベントのリスク増大との関連は、てんかん患者(オッズ比:0.59、95%信頼区間:0.35~0.98)、双極性障害患者(同:1.13、0.35~3.61)では認められなかったが、うつ病患者(同:1.65、1.24~2.19)と、いずれの疾患も有さないが服薬していた患者(同:2.57、1.78~3.71)では有意な関連が認められた。
(武藤まき:医療ライター)