イギリスの全国規模の電子カルテシステム導入、大幅な遅れの原因とは?

提供元:ケアネット

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公開日:2010/11/05

 



全国規模の電子カルテシステム導入による医療改革の実現には、長期にわたる複雑な反復過程を経る必要があり、システムおよび実現戦略の双方について柔軟性と地域適応性が求められることが、イギリス・エジンバラ大学のAnn Robertson氏らが実施した中間的なデータ解析で判明した。イギリス政府は、2010年中の始動を目指し、国家プログラムとして、168の急性期病院と73の精神保健トラストを通じて中央で統括する標準化された詳細な電子カルテの導入を進めているが、スケジュールが大幅に遅れているという。BMJ誌2010年10月23日号(オンライン版2010年9月2日号)掲載の報告。

イギリスの2次医療における電子カルテの導入状況を評価




研究グループは、イギリスの2次医療における詳細な電子カルテの実現および導入状況を調査し、その評価を行った。

調査の対象は、電子カルテの早期実現に向けて中間的なデータの集積とその解析を完了したイギリス国民医療保健サービス(NHS)の5つの急性期病院と精神保健トラストであった。

評価用のデータセットは、半構造的面接、書類と現場記録、観察記録、量的データであった。量的データは、社会技術的コーディングマトリックスを用い、データから浮上した新たなテーマを統合して、テーマ別に解析した。

“top-down”でも“bottom-up”でもなく、“middle-out”アプローチを




結果、現状として、病院の電子カルテ用アプリケーションは開発途上であり、その実現は当初の想定よりもはるかに遅れていること、概略的な項目から詳細な項目へ移行するよう標準化されたアプローチ(“top-down”アプローチ)には、各地域の活性化の支援に向けて病院トラストが要望する、より多くのバリエーションや地域独自の選択肢を許容するような展開が求められることなどが明らかになった。

また、かなりの遅れや欲求不満があるとはいえ、NHSの医師も含め、電子カルテへの支持は強く、現時点で電子カルテの全国的導入を難しくしているのは、政治的、財政的な要因と受け止められていることもうかがえた。

面接調査では、2次医療におけるNHSの診療記録サービスの契約を長期にわたり中央で交渉することに起因する様々な悪影響、特にNHSトラスト自身がこれらの契約の当事者ではないために生じる問題点が明らかとなった。これらの問題には、個々の利害関係者間の複雑な意思疎通経路、非現実的な機器配置スケジュール、遅延、国および地方のNHSの優先事項の変更に対し迅速に対応できないアプリケーションなどが含まれる。

データの解析からは、以下の点が示唆された。(1)病院用電子カルテを実現し、政府の管理と増大する地方自治を統合するには、“middle-out”アプローチ(“top-down”でも“bottom-up”でもなく、中程から上下両方向へ展開するアプローチ)が支持される、(2)詳細な電子カルテを、地方の保健コミュニティと共有できる範囲にとどめる。

著者は、「高い関心を集め、財政投資や支援を受けた早期導入施設の経験から、全国規模の電子カルテ導入による医療改革の実現には、長期にわたる複雑な反復過程を経る必要があり、システムおよび実現戦略の双方について柔軟性と地域適応性が求められることがわかった。個々の事項により適合し、より迅速な対応が可能なアプローチが新たに出現しており、このアプローチはNHSが認識しているニーズとよりよく連携しつつあり、これをさらに推し進めれば、臨床的に有用な電子カルテシステムが実現する可能性が高くなると考えられる」とまとめている。

(菅野守:医学ライター)