AVI-4658(phosphorodiamidate morpholino oligomer:PMO)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対し安全に投与可能で、ジストロフィン蛋白の正常化をもたらすことが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのSebahattin Cirak氏らの検討で示された。デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、約3,500人に1人の頻度で男児にのみ発生する進行性の重度な神経筋疾患で、X染色体短腕のジストロフィン遺伝子の読み取り枠(open reading frame)のずれに起因するジストロフィン産生の障害が原因とされる。AVI-4658はエクソン51のスキッピング(読み飛ばし)を誘導するPMOで、動物やヒトにおいてジストロフィン蛋白を回復させることが確認されている。Lancet誌2011年8月13日号(オンライン版2011年7月25日号)掲載の報告。
用量漸増法による非盲検第II相試験
研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するAVI-4658治療の臨床的な安全性および生化学的効果を用量漸増法で評価する非盲検の第II相試験を行った。
対象は5~15歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの外来患者で、治療開始前と12週のAVI-4658治療(静注投与、0.5、1.0、2.0、4.0、10.0、20.0mg/kg)を施行後に筋生検が行われた。
主要評価項目はAVI-4658の安全性と耐用性とした。副次評価項目は、エクソン51のスキッピングとジストロフィン蛋白の回復を誘導するAVI-4658の薬物動態学的活性とし、RT-PCR法、免疫組織化学検査、免疫ブロット法で測定した。
耐用性は良好、19例中7例で奏効
英国内2施設から19例(平均年齢8.7歳、6~13歳)が登録された(0.5mg/kg群:4例、1.0mg/kg群:2例、2.0mg/kg群:2例、4.0mg/kg群:3例、10.0mg/kg群:4例、20.0mg/kg群:4例)。
有害事象は軽度(63%)から中等度(32%)がほとんどで、用量に依存して頻度や重症度が上昇することはなかった。いずれの用量でもAVI-4658関連の重篤な有害事象は認められず、耐用性は良好であった。
すべての用量群でエクソン51のスキッピングが確認され、用量依存性に新たなジストロフィン蛋白の発現が認められた(p=0.0203)。7例で治療が奏効し(2.0mg/kg群の1例、10.0mg/kg群の3例、20.0mg/kg群の3例)、ジストロフィンの平均蛍光強度が治療前の8.9%(95%信頼区間:7.1~10.6)から治療後は正常対照と同等の16.4%(同:10.8~22.0)まで増加した(p=0.0287)。
最も治療効果の高かった3例(2.0、10.0、20.0mg/kgの各群1例ずつ)の治療後のジストロフィン陽性筋線維の割合はそれぞれ21、15、55%であった。これらの知見をウェスタンブロット法で確認したところ、ジストロフィン蛋白の発現が治療後には正常レベルにまで回復していた(それぞれ治療前の2%から治療後は18%に、治療前0.9%から治療後17%に、0%から7.7%に)。
著者は、「デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するAVI-4658の安全性と生化学的効果が確認され、本剤はデュシェンヌ型筋ジストロフィーの疾患修飾性治療薬となる可能性が示された」と結論し、「今後、臨床的な有効性に関する試験を実施する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)