妊娠期間の平均が12週3日の妊婦を対象に甲状腺機能スクリーニングを行い、機能低下が認められた妊婦に治療を行っても、生まれた子どもの認知機能に改善は認められなかったことが報告された。英国・カーディフ大学のJohn H. Lazarus氏らが、約2万2,000人を対象とした無作為化試験の結果、報告した。胎児が甲状腺ホルモンを分泌するようになるのは在胎約18~20週以降で、それまでは母胎の遊離サイロキシン(T4)に依存して、中枢神経系の成熟を含む成長を遂げていくとされている。遊離T4にはヨウ素が不可欠で、妊娠前のヨウ素サプリメントの服用は認知機能を増強することや、一方で妊娠中の甲状腺刺激ホルモン高値は出生児の認知機能障害をもたらすことが知られ、甲状腺機能障害を出産前に検知し治療することは有益である可能性が示唆されていた。NEJM誌2012年2月9日号掲載報告より。
出産前スクリーニングで陽性の妊婦にレボチロキシン投与
試験は、英国10ヵ所、イタリア1ヵ所の医療機関から集められた、妊娠期間が15週6日未満の妊婦2万1,846人を対象とし、被験者から血液サンプルの提供を受け、甲状腺刺激ホルモンと遊離サイロキシン(T4)を測定して行われた。
被験者は、スクリーニング群(直ちに測定:1万924人)と対照群(血清を保存し、分娩直後に測定:1万922人)に割り付けられ測定、追跡がされた。
測定において、甲状腺刺激ホルモン値97.5パーセンタイル超か、遊離T4値2.5パーセンタイル未満、またはその両方の場合を「スクリーニング結果陽性」とした。スクリーニング群で陽性だった妊婦には、レボチロキシン(商品名:チラージンほか)150μg/日が投与された。
主要評価項目は、スクリーニング陽性だった妊婦から生まれた子どもの3歳時のIQとした。評価は割り付け情報を知らされていない心理学者が測定した。
甲状腺刺激ホルモン投与の効果みられず
血液サンプルを提供した女性2万1,846例の妊娠期間中央値は12週3日だった。
スクリーニングの結果が陽性だったのは、スクリーニング群390例、対照群404例だった。スクリーニング群陽性者へのレボチロキシン治療開始は、妊娠期間中央値13週3日で、投与は甲状腺ホルモン値0.1~1.0mIU/L達成を目標に必要に応じて調整された。
スクリーニングの結果が陽性だった女性の出生児の平均IQスコアは、スクリーニング群99.2、対照群100.0だった(格差:0.8、95%信頼区間:-1.1~2.6、intention-to-treat解析によるP=0.40)。
IQ 85未満の出生児の比率は、スクリーニング群12.1%、対照群14.1%であった(格差:2.1ポイント、95%信頼区間:-2.6~6.7、P=0.39)。on-treatment解析でも同様の結果が示された。
(朝田哲明:医療ライター)