脳卒中患者に対する遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(rt-PA)による静脈内血栓溶解療法は、発症から6時間まで適応を拡大しても、6ヵ月後の身体機能アウトカムを改善することが、英国オックスフォード大学のColin Baigent氏らIST-3 collaborative groupが進めるIST-3試験(http://www.dcn.ed.ac.uk/ist3/)で示された。rt-PAによる血栓溶解療法は、欧州では発症後3時間以内、80歳未満の急性虚血性脳卒中患者に対し承認されている。一方、11試験(3,977例)に関するコクランレビューでは、rt-PAは早期の致死的脳出血を3%増加させるものの身体機能障害のない生存を有意に改善することが示され、発症後6時間まで有効な可能性が示唆されている。Lancet誌2012年6月23日号(オンライン版2012年5月23日号)掲載の報告。
rt-PA 6時間以内投与の有用性を無作為化試験で評価
IST-3(Third International Stroke Trial)試験は、より広範な脳卒中患者(発症後6時間まで、80歳以上)に対するrt-PAによる静脈内血栓溶解療法の有用性を評価する国際的な多施設共同非盲検無作為化試験。
患者は、rt-PA 0.9mg/kgを静脈内投与する群または対照群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、6ヵ月後の自立した生存例の割合とした。
自立はOxford Handicap Score(OHS)で評価し、OHS 0~2点を自立と定義した(0:身体機能の障害がなく、日常生活に変化なし、1:軽度の症状があるが、日常生活に支障なし、2:軽度の身体機能障害があり、日常生活にもある程度制限があるが、自立している)。
早期の死亡率や脳出血の頻度は高いが、6ヵ月後のOHSが改善
2000年5月~2011年7月までに、12ヵ国156施設から3,035例が登録され、このうち1,617例(53%)が80歳以上だった。rt-PA群に1,515例が、対照群には1,520例が割り付けられた。
6ヵ月の時点における自立した生存率はrt-PA群が37%(554/1,515例)、対照群は35%(534/1,520例)で、両群間に有意な差はなかった[調整オッズ比(OR):1.13、95%信頼区間(CI):0.95~1.35、p=0.181]。OHSの改善率はrt-PA群で有意に高かった(OR:1.27、95%CI:1.10~1.47、p=0.001)。
7日以内に発現した致死的/非致死的な症候性脳出血はrt-PA群が7%(104/1,515例)と、対照群の1%(16/1,520例)に比べ有意に高頻度であった(調整OR:6.94、95%CI:4.07~11.8、p<0.0001)。
7日以内の死亡率はrt-PA群が11%(163/1,515例)と、対照群の7%(107/1,520例)に比べ有意に高かった(調整OR:1.60、95%CI:1.22~2.08、p=0.001)が、7日~6ヵ月の死亡率はrt-PA群で有意に低く[rt-PA群16%(245/1,515例) vs 対照群20%(300/1,520例)、調整OR:0.73、95%CI:0.59~0.89、p=0.002]、6ヵ月までの全体の死亡率は両群で同等だった[rt-PA群27%(408/1,515例) vs 対照群27%(407/1,520例)、調整OR:0.96、95%CI:0.80~1.15、p=0.672]。
著者は、「約4分の3の患者が発症から3時間以降に無作為割り付けされ、半数以上が80歳を超える集団において、rt-PAは6ヵ月後の身体機能アウトカムを改善することを示すエビデンスが得られた」と結論し、「これらの知見は、rt-PAの80歳以上の患者に対する適応拡大を正当化し、脳卒中の重症度やベースラインの画像診断における早期の虚血性変化にかかわらず有用なことを示す。今後は、発症後4.5時間以降の患者を対象とした無作為化試験を行う必要がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)