1990~2010年の20年間の世界の疾病負担の状況は、死亡率の抑制には実質的な進展がみられたものの、非致死的疾患や傷病の発生はほとんど低下しておらず、健康寿命(healthy life expectancy:HALE)は国によって大きな差があることが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のJoshua A Salomon氏らの検討で示された。疾病負担については、1)医学的介入によって疾患による致死率は低下するが発生率は抑制されないため有病率が上昇するとの説[有病状態の拡大(expansion of morbidity)]と、2)死亡率が低下すると予防により慢性疾患の発症年齢が上昇し身体機能障害をともなう罹病期間が短縮するとの説[有病状態の圧縮(compression of morbidity)]があるが、これらの仮説は将来の保健医療計画や医療コストに大きな影響を及ぼすとされる。そのため適切な評価が重要な課題とされ、HALEは有用な指標となる可能性があるという。Lancet誌2012年12月15・22・29日合併号掲載の報告。
1990年、2010年のHELAおよび20年間の変動を評価
研究グループは、Global Burden of Disease Study 2010(GBD2010)のデータを用いて、世界187ヵ国の1990年および2010年のHALEと、20年間の変動を明らかにすることを目的に系統的な解析を行った。
HALEは、1971年にDaniel Sullivanが提唱した概念を発展的に継承した集団の健康状態に関する集約的な単一指標で、年齢階層別の死亡率、罹患率、身体機能障害を考慮した良好な健康状態での生存年数である。
GDB2010のデータには、年齢階層別の死亡率や1,160の非致死的疾患の有病率、これらの疾患に関連する220の健康状態について重み付けされた身体機能障害などに関する情報が含まれる。モンテカルロ・シミュレーション法で重複疾患を調整した年齢階層別の健康状態の平均値を算出し、Sullivan法による生命表を用いて性別、国別、年別のHALEの推定値を算定した。
男女とも日本が最上位、「有病状態の拡大」仮説と一致する結果
2010年の世界の男性の出生時HALEは58.3歳、女性は61.8歳であった。1990~2010年の20年間において、平均余命に比べてHALEの延長は短く、出生時平均余命の1年の延長で予測されるHALEの延長は男性が0.84年、女性は0.81年だった。
2010年の国別の出生時HALEは、男性ではハイチの27.9歳が最も低く、最高は日本の68.8歳で、女性では同じくハイチが37.1歳と最低で、日本の71.7歳が最も高かった。1990~2010年までに出生時HALEが5歳以上延長した国は男性が42ヵ国、女性は37ヵ国で、逆にHALEが短縮した国は男性21ヵ国、女性11ヵ国だった。
国別および経時的な平均余命は、障害で失われた健康な生存年数と強い正の相関を示した。この関連性は、男性および女性、横断的解析、縦断的解析、出生時、50歳時にも一貫して認められた。身体機能の障害は、死亡に比べればHALEに及ぼす影響が小さかった。
著者は、「HALEには国によって大きな差がみられた。ほとんどの国では、平均余命の延長に伴い障害で失われた健康な生存年数も延長しており、『有病状態の拡大』仮説との一致が確認された。20年間で死亡率の抑制には実質的な進展がみられたものの、非致死的疾患や傷病の発生はほとんど低下していなかった」とまとめ、「HALEは、2015年以降の世界の健康状態のモニタリングにおいても興味深い指標である」としている。
(菅野守:医学ライター)