高リスク女性の乳がん1次予防において、選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)はその発症を長期的に抑制することが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のJack Cuzick氏らの検討で示された。タモキシフェン(商品名:ノルバデックスほか)による術後補助療法では対側乳がんの発症率が大幅に低下し、SERMによる骨粗鬆症女性の骨折予防試験でも乳がんの抑制効果が示唆されている。早期のメタ解析では、SERMによる高リスク女性の乳がんリスク低下効果が示唆されているが、その持続期間は明らかにされていなかった。Lancet誌オンライン版2013年4月30日号掲載の報告。
4つのSERMの1次予防効果を最新データのメタ解析で評価
研究グループは、以前にタモキシフェンとラロキシフェン(同:エビスタ、骨粗鬆症薬)について行われた短期的な乳がん1次予防のデータに、これらの薬剤のその後の長期的なデータと、アルゾキシフェンとラソフォキシフェン(いずれも国内未承認)の短期的なデータを加え、これら4つのSERMに関する最新のメタ解析を行った。
SERMによる9つの乳がん予防試験(プラセボ対照比較試験:8試験、ラロキシフェンとタモキシフェンの比較試験:1試験)に参加した女性の個々のデータを用いた。対象は、乳がんリスクが高い女性、リスクは高くないが子宮摘出術を受けた女性、骨粗鬆症や冠動脈心疾患を有する閉経後女性などで、治療期間は4~8年であった。
主要評価項目は、フォローアップ期間10年における全乳がん[非浸潤性乳管がん(DCIS)を含む]の発症率とした。
10年後の乳がん発症率が有意に38%低下
8万3,399人(30万6,617人年)の女性が解析の対象となり、フォローアップ期間中央値は65ヵ月だった。
SERMの投与により、10年後の乳がん発症率は有意に38%低下した(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.56~0.69)。投与開始から10年の間に、1人の乳がん発症を予防するのに要する投与例数(NNT)は42例だった。
投与開始から5年までの乳がん発症の低下率は42%(HR:0.58、95%CI:0.51~0.66、p<0.0001)で、5~10年までの25%(HR:0.75、0.61~0.93、p=0.007)に比べ良好であり、この2つの期間に統計学的に有意な異質性は認めなかった。
エストロゲン受容体(ER)陽性の浸潤性乳がんの発症は有意に51%低下した(HR:0.49、95%CI:0.42~0.57、NNT:53例)が、ER陰性浸潤性乳がんはむしろ増加傾向を認めたものの有意差はなかった(HR:1.14、95%CI:0.90~1.45)。DCISの発症率は、SERMの投与により有意に31%低下した(HR:0.69、95%CI:0.53~0.90)。
血栓塞栓性イベントはSERM投与群でプラセボよりも多く認められた(オッズ比[OR]:1.73、95%CI:1.47~2.05、p<0.0001)。SERM投与により脊椎骨折が有意に34%減少した(OR:0.66、95%CI:0.59~0.73)が、非脊椎骨折の抑制効果は小さなものだった(OR:0.93、95%CI:0.87~0.99)。
著者は、「SERMの予防投与は、高リスク女性の乳がん発症を長期的に抑制することが示された」と結論し、「SERMは乳がん予防効果が高いものの、毒性への懸念から有益性と有害性のバランスがよくないと考えられてきた。今回の長期的な結果では、以前の短期的な知見に比べ有益性-有害性バランスが改善されたことから、今後もSERMの評価を継続すべきと考えられる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)