遺伝性骨疾患とWNT1遺伝子変異の関連が明らかに/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2013/05/20

 

 遺伝病である若年性骨粗鬆症と骨形成不全症はWNT1遺伝子変異と関連し、WNT1は骨形成のシグナル伝達経路の主要分子であり、骨量調節における重要なリガンドであることが、フィンランド・ヘルシンキ大学のChristine M. Laine氏らの検討で示された。近年、骨の形成や維持におけるWNTシグナル伝達経路の役割が広く研究されているが、主要な伝達物質である低密度リポ蛋白受容体関連蛋白(LRP)5/6を介する経路のWNTリガンドはみつかっていなかった。NEJM誌オンライン版5月9日号掲載の報告。

若年性骨粗鬆症、骨形成不全症の2家系を調査
 研究グループは、優性遺伝病である若年性骨粗鬆症の1家系および劣性遺伝病である骨形成不全症の1家系を調査し、ヒトの骨疾患とWNT1遺伝子変異の関連について検討した。

 重度の若年性骨粗鬆症の家系では、X線検査で10人が低骨密度(BMD)および脊椎、末梢骨の骨折をともなう骨粗鬆症と診断された。カルシウムホメオスタシスや骨代謝回転の血清および尿中マーカーは正常だった。

 腸骨間の骨生検標本の組織形態計測的解析で成人2例に骨代謝回転や骨形成の低下をともなう重度の骨粗鬆症が確認され、14歳の男子は骨量は正常なもののこの年齢にしては骨形成や骨再形成が低下していた。

 もうひとつのLao Hmong族の家族は、姉妹である2例が重度の劣性遺伝骨形成不全症と推定された。姉は生後1ヵ月時に最初の骨折を起こし、ともにX線画像上で多発性骨折および経時的な続発症(脊椎圧迫骨折、後側弯症、重度の低身長、長骨の変形など)を発症していた。

 姉(26歳)は骨疾患のため車いす生活だが日常生活にほとんど問題はなく、知能も正常であった。妹(23歳)には重度の知能障害がみられた。他の同胞や母親に異常はなく、父親には腰椎のBMD低値や椎体終板(L5)を含む軽度の圧迫変形がみられた。

骨疾患のバイオマーカー、治療標的となる可能性も
 WNT1遺伝子変異の解析では、若年性骨粗鬆症の家系でヘテロ接合性ミスセンス変異(c.652T→G[p.Cys218Gly])が、骨形成不全症の家系でホモ接合性ナンセンス変異(c.884C→A, p.Ser295)がみつかった。いずれの遺伝子変異も、WNT1のシグナル伝達を阻害し、骨形成の障害を引き起こす。

 in vitro実験では、異常型WNT1蛋白により、古典的なWNTシグナル伝達(canonical WNT signaling)、その標的遺伝子および石灰化の誘導能が障害されることが示された。古典的WNTシグナル伝達は正常な骨の発育や恒常性の維持に不可欠とされる。

 マウスを用いた実験では、骨髄(とくにB細胞系と造血前駆細胞)におけるWnt1遺伝子の発現が示され、細胞系譜解析(lineage tracing)により骨細胞サブセットでの強力な蛋白発現と、皮質骨での弱い蛋白発現が確認された。

 これは、若年性骨粗鬆症や骨形成不全症では、骨髄の造血幹細胞発育環境における造血系細胞と骨芽系細胞間のクロストークに変化が生じていることを示唆する。正常な造血にはこのクロストークが必須であり、WNTシグナル伝達が重要な役割を担っている。

 著者は、「これらの知見は、骨形成における造血細胞の役割を支持し、WNT1がこのシグナル伝達経路の主要分子であることを示す。また、WNT1はヒトの骨量調節における重要なリガンドであり、それゆえ骨疾患のバイオマーカーとなり、骨粗鬆症、骨形成不全の治療標的となる可能性がある」と考察している。

(菅野守:医学ライター)