イタリア・ラツィオ州保健局のGiulia Cesaroni氏らは、ヨーロッパの大気汚染曝露コホート研究(ESCAPEプロジェクト)に参加する11コホート・約10万人を平均11.5年追跡したデータを解析した結果、大気中の粒子状物質いわゆるPM2.5やPM10などへの長期曝露と冠動脈イベント発生とが相関していることを明らかにした。その関連は、現在ヨーロッパで定められている制限基準値(PM2.5は年間25μg/m3未満、PM10は40μg/m3未満)以下でも認められたという。結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、現状の基準値が死亡率だけを考慮したもので過小評価されていることを示し、基準値を引き下げることを支持するものである」と報告している。BMJ誌オンライン版2014年1月21日号掲載の報告。
ヨーロッパ5ヵ国10万166例を平均11.5年間追跡
研究グループは、大気中汚染物質による長期曝露の急性冠動脈イベント発生への影響を調べるため、ESCAPEプロジェクトに参加する11コホート(フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、イタリアから参加)の前向きに集めたデータをメタ解析にて評価した。解析には、1997~2007年に登録された冠動脈イベント非既往10万166例が組み込まれた。平均追跡期間は11.5年だった。
2008~2012年に自宅を起点に測定した大気中の粒子状物質<2.5μm(PM2.5)、2.5~10μm(粗いPM)、<10μm(PM10)、煤煙(PM2.5吸収度)、窒素酸化物、排気ガスのモデル化濃度を求め、コホートの急性冠動脈イベント(心筋梗塞、不安定狭心症)発生について特異的ハザード比を算出し評価した。ハザード比は、社会人口統計学的および生活習慣リスク因子を補正したうえで、汚染物質の一定量増分当たりについて、プールランダムエフェクトメタ解析にて算出し検討した。
PM2.5、年間5μg/m3上昇で冠動脈イベントリスク13%増大
冠動脈イベントの発生は5,157例であった。
解析の結果、PM2.5の大気中平均濃度が年間5μg/m
3上昇で冠動脈イベントリスクは13%増大(ハザード比:1.13、95%信頼区間[CI]:0.98~1.30)することが認められた。PM10は10μg/m
3上昇で同リスク12%増大(同:1.12、1.01~1.25)が認められた。コホート間の不均一性のエビデンスはみられなかった。
正の関連性は、現状のヨーロッパの規制基準値以下でも検出された。PM2.5の制限基準値である年間25μg/m
3未満下でも年間5μg/m
3上昇のハザード比は1.18(95%CI:1.01~1.39)、PM10の同40μg/m
3未満下でも年間10μg/m
3上昇のハザード比は1.12(同:1.00~1.27)であった。
その他の大気汚染物質についても有意ではないが正の関連が認められた。
(武藤まき:医療ライター)