長時間労働は多量飲酒につながる/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2015/01/26

 

 労働時間が標準勧告を超えて長くなると、アルコール飲用量が健康リスクを引き起こすレベルにまで増加する可能性が高くなることが、フィンランド労働衛生研究所のMarianna Virtanen氏らの検討で示された。欧州労働時間指令の勧告では、労働時間の上限は週48時間とされる。長時間労働は、心疾患、睡眠不足、就業中のけが、精神健康問題のリスクを増大させると考えられ、危険な飲酒は常習的欠勤、仕事の非効率化や成績不振、意思決定の障害、顧客との関係悪化などの悪影響をもたらすとされるが、労働時間と危険な飲酒の関連を系統的に評価した研究はこれまでなかったという。BMJ誌オンライン版2015年1月13日号掲載の報告より。

労働時間とアルコール飲用との関連を定量的に評価
 研究グループは、労働時間とアルコール飲用との関連の定量的な評価を目的に、既報の研究や未発表の個別参加データを系統的にレビューし、メタ解析を行った(EU New OSH ERA Research Programなどの助成による)。

 2014年4月までに発表された既報の研究は、医学データベースの検索と、補足的なマニュアル検索を行って収集した。未発表の個別参加データは、この研究グループが進めるIPD-Workコンソーシアムや、オープンアクセスのデータ集積サイト(ICPSR、UK DS)から収集した。

 対象は、労働時間の長さとアルコール飲用の関連を検討した断面研究および前向き研究とした。ランダム効果を用いたメタ解析を行い、異質性はメタ回帰分析で検証した。

有意な関連はあるが、相対的な差は小さい
 14ヵ国で行われた61件の断面研究(33万3,693例)および9ヵ国で実施された20件の前向き研究(10万602例)が解析の対象となった。日本の試験が13件含まれた。

 61件の断面研究における労働時間とアルコール飲用の関連の統合最大補正オッズ比(OR)は1.11(95%信頼区間[CI]:1.05~1.18)であり、労働時間が長くなるとアルコール飲用量が増えることが示唆された。この関連は、個別参加データ(OR:1.10、95%CI:1.04~1.18)と既報の試験(OR:1.12、95%CI:1.02~1.22)で類似していた。

 20件の前向き研究では、新規の危険なアルコール飲用の発生のORは1.12(95%CI:1.04~1.20)であり、有意な関連が認められた。

 18件の個別参加データにより、労働時間の上限を週48時間と勧告する欧州労働時間指令の評価を行った。その結果、パートタイム労働(週35時間未満)と正規の週41~48時間労働には、危険なアルコール飲用の新規発生率に差を認めなかった。

 これに対し、標準である週35~40時間労働(危険なアルコール飲用の新規発生率:6.2%)に比べ、労働時間が週49~54時間に延長した場合のORは1.13(95%CI:1.02~1.26)、55時間以上の場合のORは1.12(95%CI:1.01~1.25)であり、いずれも有意な関連を示したが、発生率の補正群間差はそれぞれ0.8%、0.7%と小さかった。

 これらの関連には、性別、年齢別、社会経済的地位別、地域別、地域住民と職業集団の別、コホート間の危険な飲酒の発生率の違い、サンプルの脱落率の違いで差はみられなかった。

 著者は、「労働時間の超過により、アルコール飲用が健康に危険な量に増加する可能性が高くなる」とまとめ、「標準労働時間と超過労働時間の間で、危険なアルコール飲用の新規発生率の差は相対的に小さかった。したがって、労働時間に関する情報が、アルコール濫用に対する予防的介入のベネフィットに影響を及ぼすかを評価するために、さらなる検討を進める必要がある」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)

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