高齢者においては、喫煙は心血管イベントや心血管死の独立した強力なリスク因子であるとの従来のエビデンスを、あらためて裏付ける知見が、ドイツがん研究センター(DKFZ)のUte Mons氏らCHANCESコンソーシアム(http://www.chancesfp7.eu/)が実施したメタ解析で得られた。一般に、喫煙は疾患や死亡の修正可能な主要リスク因子であり、禁煙は喫煙関連リスクの抑制に有効とされる。一方、心血管イベントのほとんどが高齢者で発現しており、この年齢層のデータを代用して一般化されているが、高齢者に焦点を当てた検討は少ないという。BMJ誌オンライン版2015年4月20日号掲載の報告より。
25コホートのデータをメタ解析、RAPを算出
1964年に、男性喫煙者は冠動脈心疾患による死亡リスクが非喫煙者よりも高いとの研究結果が米国で初めて報告されて以降、その因果関係を支持する強力なエビデンスが蓄積されてきた。この50年間に、先進国ではタバコの消費量の減少に伴い心血管死亡率が低下しているものの、心血管疾患は主要な死亡原因であり続けている。
心血管疾患の発症率は加齢と共に増加し、イベントの多くは高齢者にみられる。現在の人口統計学的な傾向を考慮すると、心血管疾患の疾病負担を抑制するには、高齢者のリスク因子の管理による予防がきわめて重要とされる。
そこで、CHANCESコンソーシアムは、60歳以上のコホートにおける心血管死、急性冠イベント、脳卒中イベントに及ぼす喫煙および禁煙の影響の評価を目的にメタ解析を行った(欧州委員会DG-RESEARCHの第7次枠組計画などの助成による)。従来の疫学的な相対リスクに加え、心血管死の「リスク進展期間(risk advancement period:RAP)」を算出した。
喫煙のリスクや禁煙の効果を一般社会に伝えることは、禁煙の促進に有効な手段であるが、一般人にとって相対リスクは把握が難しい可能性があり、リスク情報伝達(risk communication)においてRAPが有用な方法として提唱されている。RAPは、「あるリスク因子に曝露した集団において、曝露していない集団と比較し、そのリスク因子に起因するイベント(たとえば疾患の発症や死亡)の発生が早まる期間」と定義される。
解析には、CHANCESコンソーシアムに参加する25のコホート(欧米23ヵ国)のデータを使用した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いてコホートごとに解析を行い、メタ解析により統合した。
喫煙者は心血管死が5.5年早まる、禁煙はリスク抑制に有効
60歳以上の50万3,905例が解析の対象となった。60~69歳が86.6%、70歳以上が13.4%で、男性が56.0%であり、生涯非喫煙者が40.2%、元喫煙者が47.4%、現喫煙者は12.4%であった。このうち3万7,952例が心血管疾患で死亡した。5,966例が急性冠イベントを、5,497例が脳卒中を発症した。
ランダム効果モデルによる非喫煙者に対する喫煙者の心血管死のハザード比(HR)は2.07(95%信頼区間[CI]:1.82~2.36)、元喫煙者のHRは1.37(95%CI:1.25~1.49)であり、喫煙者、元喫煙者ともリスクが有意に高かった。
RAPは喫煙者が5.50年(95%CI:4.25~6.75)、元喫煙者は2.16年(95%CI:1.38~2.93)であり、いずれも心血管死が非喫煙者に比べ有意に早く発生した。また、喫煙者の心血管死のリスクはタバコの消費量が多いほど高く、元喫煙者のリスクは禁煙開始以降の時間が長いほど低かった。
これら喫煙関連の心血管死の相対リスクと同様のパターンが、急性冠イベントと脳卒中イベントにも認められたが、心血管死よりもわずかにリスクが低かった。
著者は、「これらの知見は、高齢者でも喫煙が心血管イベントおよび心血管死の独立の強力なリスク因子であるとの従来のエビデンスを支持し、さらに発展させるものである」とし、「禁煙は依然として過度のリスクの抑制に有効であることが示された」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)