1型糖尿病患者に対する早期の強化療法は、眼科手術を受けるリスクを長期にわたり著明に抑制することが、米国ハーバード・メディカル・スクールのLloyd Paul Aiello氏らDCCT/EDIC研究グループの最新の検討で示された。DCCT試験(Diabetes Control and Complications Trial)では6.5年間の強化療法により網膜症の発症が従来療法に比べ76%減少し、引き続き行われたEDIC試験(Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications)では、血糖値がほぼ同等であるにもかかわらずDCCT試験の強化療法例において細小血管および大血管の合併症の進展が持続的に抑制されたことが報告されている。NEJM誌2015年4月30日号掲載の報告より。
最長27年の追跡データで眼科手術施行状況を評価
研究グループは、今回、北米で行われたDCCT試験の参加者の最長27年に及ぶ追跡データを解析し、眼科手術の施行状況を評価した。
DCCT試験では、1983~1989年に年齢13~39歳の1型糖尿病患者1,441例が、血糖値を可能な限り非糖尿病の範囲に近づける強化療法を行う群(711例)または高血糖症状の予防を目的とする従来療法を行う群(730例)に無作為に割り付けられ、1993年まで追跡が行われた。
その後、DCCT試験の従来療法群を強化療法群に移行し、1994年から観察研究であるEDIC試験(1,375例)で追跡を継続した。
患者の自己申告による眼科手術歴の調査を年1回実施した。これら2つの試験期間中の眼科手術の施行状況および費用を2群間で比較した。
眼科手術:8.9 vs. 13.4%、メタボリック・メモリーの概念を裏付ける知見
DCCT試験のベースラインの平均年齢は27歳、罹病期間は6年、HbA1cは9.1%であり、患者の80%以上が正常視力(20/20以上、日本の視力1.0以上に相当)であった。追跡期間中央値は23年であり、この間に161例が319件の眼科手術を受けた(DCCT試験の期間中は6件のみ)。
眼科手術の施行率は、強化療法群が8.9%(63/711例、130件)であり、従来療法群の13.4%(98/730例、189件)に比べ有意に低かった(p<0.001)。
また、DCCT試験のベースラインの背景因子で補正すると、強化療法群は従来療法群に比し糖尿病関連の眼科手術を1回以上受けるリスクが48%減少し(p<0.001)、眼科手術全体のリスクは37%低下した(p=0.01)。
白内障手術を受けた患者は、強化療法群が42例、従来療法群は61例であり、補正後の強化療法群のリスク減少率は48%(p=0.002)であった。
硝子体手術または網膜剝離術、あるいはその両方を受けた患者は、それぞれ29例、50例であり、補正後の強化療法群のリスク減少率は45%(p=0.01)であった。
一方、手術の費用は強化療法群が32%低かった(42万9,469 vs. 63万4,925ドル)。また、補正後のCox比例ハザードモデルや多変量モデルによる解析では、糖尿病関連の眼科手術のベースラインのリスク因子として、女性、加齢、罹病期間の長さ、HbA1c高値、正常より低い視力などが挙げられた。
著者は、「眼科手術の長期リスクにおける早期の強化療法による血糖コントロールの重要性が浮き彫りとなった」とし、「これらの知見は、早期の強化療法導入が腎症のリスクにもたらす長期的なベネフィットの報告と類似しており、過去の高血糖の程度やその曝露期間が、その後の糖尿病関連合併症の進展に影響を及ぼすとするメタボリック・メモリーの概念を支持するもの」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)