ロシレチニブ(rociletinib)は、T790M耐性変異による上皮成長因子受容体(EGFR)変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)で、多くの前治療歴がある患者に対し、優れた抗腫瘍効果と持続的な病勢コントロールをもたらすことが、米国・マサチューセッツ総合病院のLecia V Sequist氏らの検討で示された。EGFR変異陽性NSCLC患者における既存のEGFR阻害薬に対する耐性の原因の多くはEGFR T790M変異である。ロシレチニブは新規の経口EGFR阻害薬であり、EGFR変異陽性NSCLCの前臨床モデルにおいて、T790M耐性変異の有無にかかわらず抗腫瘍活性が確認されている。NEJM誌2015年4月30日号掲載の報告。
T790M耐性変異陰性例も含む第I/II相試験
研究グループは、
EGFR変異陽性NSCLCに対するロシレチニブの安全性と有効性の評価を目的に第I/II相試験を行った。対象は、年齢18歳以上、全身状態が良好(ECOG PS 0/1)で、第1、2世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による前治療中に病勢が進行した
EGFR変異陽性NSCLC患者であった。
T790M耐性変異の有無の同定のためにスクリーニング時に全例で腫瘍生検が行われた。第I相試験(用量決定期)の参加者はT790M耐性変異の有無は問われなかったが、第II相試験(拡大期)は中央判定による陽性例に限定された。
第II相試験では、ロシレチニブ500mg(1日2回)、625mg(同)、750mg(同)のいずれかの用量が投与された。治療は、21日を1サイクルとし、病勢進行、許容されない有害事象、患者の希望による中止のいずれかとなるまで継続した。
2012年3月~2014年4月に、米国、フランス、オーストラリアの10施設に合計130例が登録された。年齢中央値は60.0歳、女性が77%で、アジア人が15%含まれた。前治療レジメン数中央値は4、T790M耐性変異陽性例は57%だった。
最大耐用量は不明、陽性例で奏効率59%、PFS中央値13.1ヵ月
最初に登録された57例は、遊離塩基型のロシレチニブ(150mg[1日1回]~900mg[1日2回])が投与された。残りの患者には、薬物動態プロファイルを改善した臭化水素酸塩(HBr)型のロシレチニブ(500mg[1日2回]~1,000mg[1日2回])が投与されたが、2型とも活性部分は同じである。
第I相試験では、最大耐用量(用量制限毒性の発現率が33%未満である最大投与量)は同定されなかった。頻度の高い用量制限毒性は高血糖のみであった。
治療用量(遊離塩基型900mg[1日2回]およびHBr型500mg[1日2回]、625mg[同]、750mg[同]、1,000mg[同])の投与を受けた92例で有効性解析を行った。63例(T790M耐性変異陽性例:46例、陰性例:17例)で評価が可能であった。
T790M耐性変異陽性例では、部分奏効(PR)が27例(59%)、病勢安定(SD)が16例(35%)で得られ、客観的奏効率は59%であり、病勢コントロール率は93%に達した。無増悪生存期間(PFS)中央値は13.1ヵ月であった。
一方、T790M耐性変異陰性例では、PRが5例(29%)、SDが5例(29%)で、客観的奏効率は29%、病勢コントロール率は59%であり、PFS中央値は5.6ヵ月であった。
治療関連有害事象は全般に頻度が低く軽度であった。治療用量投与例(92例)では、高血糖が47%、悪心が35%、疲労感が24%、下痢が22%、食欲減退が20%にみられた。Grade 3の有害事象として、高血糖が22%、補正QT間隔延長が5%に発現したが、下痢は認めなかった。
高血糖のほとんどは減量や経口血糖降下薬でコントロールが可能であり、治療中止例はなかった。Grade 3の補正QT間隔延長に症状はみられず、全例が減量にてコントロール可能であり、心室性不整脈の報告はなかった。また、ざ瘡様皮疹は認めなかったが、Grade 1の斑状丘疹状皮疹が1例にみられた。
著者は、「ロシレチニブは、中央値で4という多くの前治療歴のあるNSCLC患者において、T790M耐性変異陽性例で優れた抗腫瘍活性を示すとともに、陰性例にも一定の効果をもたらした」としている。
(菅野守:医学ライター)