TAS-102(トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合薬)は、難治性の切除不能大腸がんの治療において、最良の支持療法(best supportive care:BSC)のみに比べ全生存期間(OS)が有意に延長することが、日本のほか欧米諸国とオーストラリアが参加した第III相試験(RECOURSE試験)で示された。研究の成果は、米国ダナ・ファーバーがん研究所のRobert J Mayer氏らにより報告された。本薬は、チミジンベースの核酸アナログであるトリフルリジンと、チミジンホスホリラーゼ阻害薬であるチピラシル塩酸塩を配合したヌクレオシド系経口抗がん剤。トリフルリジンはDNAに取り込まれることで抗腫瘍効果を発揮し、チピラシル塩酸塩はトリフルリジンの分解に関与するチミジンホスホリラーゼを阻害することでトリフルリジンの適切な血中濃度を維持するという。日本人を対象とするプラセボ対照無作為化第II相試験で、既治療の切除不能大腸がんに対する有用性が確認されていた。NEJM誌2015年5月14日号掲載の報告より。
BSCへの追加効果をプラセボ対照無作為化試験で評価
RECOURSE試験は、切除不能な進行・再発大腸がんに対するTAS-102の有用性を評価する国際的な二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢18歳以上、全身状態が良好(ECOG PS 0/1)で、生検で結腸または直腸の腺がんが確定され、2レジメン以上の標準的化学療法による前治療歴のある患者であった。
被験者は、TAS-102またはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。投与スケジュールは、TAS-102 35mg/m
2(1日2回)の週5日投与、2日休薬を2週行ったのち2週休薬する4週を1サイクルとしてこれを繰り返した。また、全例にBSCが施行された。
主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効率、病勢コントロール率などであった。
2012年6月17日~2013年10月8日に、日本を含む13ヵ国116施設に800例が登録され、TAS-102群に534例、プラセボ群には266例が割り付けられた。798例(533例、265例)が治療を開始し、760例(502例、258例)で腫瘍反応の評価が行われた。
OS、PFS、病勢コントロール率のほか、PS増悪までの期間も改善
ベースラインの年齢中央値は、TAS-102群が63歳、プラセボ群も63歳、男性がそれぞれ61%、62%で、日本人が33%ずつ含まれた。
KRAS変異陽性例は51%ずつ、前治療レジメン数≧4は60%、63%を占めた。また、全例がフッ化ピリミジン系薬、オキサリプラチン、イリノテカンを含むレジメンによる前治療を受けており、プラセボ群の1例を除きベバシズマブの投与歴があった。
OS中央値は、TAS-102群が7.1ヵ月であり、プラセボ群の5.3ヵ月に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.68、95%信頼区間[CI]:0.58~0.81、p<0.001)。1年OSはそれぞれ27%、18%であった。また、事前に規定されたサブグループのほとんどで、プラセボ群よりもTAS-102群のOS中央値が良好であった。
PFS中央値も、TAS-102群が2.0ヵ月と、プラセボ群の1.7ヵ月に比し有意に延長した(HR:0.48、95%CI:0.41~0.57、p<0.001)。また、すべてのサブグループでTAS-102群のPFS中央値が有意に優れた。
TAS-102群の8例で部分奏効(PR)が、プラセボ群の1例で完全奏効(CR)が得られ、奏効率はそれぞれ1.6%、0.4%であった(p=0.29)。また、これに6週以上持続する病勢安静(SD)を加えた病勢コントロール率はそれぞれ44%、16%であり、TAS-102群で有意に優れた(p<0.001)。
ベースラインのPS 0/1が試験期間中に2以上へと増悪した患者は、TAS-102群が72%(383例)、プラセボ群は81%(216例)であり、増悪までの期間中央値はそれぞれ5.7ヵ月、4.0ヵ月と、TAS-102群で有意に長かった(HR:0.66、95%CI:0.56~0.78、p<0.001)。
Grade 3以上の有害事象の発現率は、TAS-102群が69%、プラセボ群は52%であった。TAS-102関連の臨床的に重要なgrade 3以上の有害事象として、好中球減少が38%、白血球減少が21%にみられた。また、発熱性好中球減少が4%に発現し、治療関連死が1例(敗血症性ショック)認められた。
そのほか、TAS-102群で頻度の高いGrade 3以上の有害事象として、貧血(18 vs. 3%)や血小板減少(5 vs. 1%)が認められた。一方、重篤な肝および腎機能障害、食欲不振、口内炎、手足症候群、心イベントには両群間に臨床的に重要な差はなかった。
著者は、「TAS-102は、日本人および西欧人において、フルオロウラシルに不応となった患者を含め、多種類の前治療歴のある切除不能大腸がんに対し臨床的な抗腫瘍効果をもたらした」とまとめ、「これらの知見は、TAS-102の作用機序はフッ化ピリミジン系薬とは異なるとの前臨床データを臨床的に支持するもの」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)