2型糖尿病に対する5.6年の強化血糖降下療法により、心臓発作や脳卒中などの主要な心血管イベントが、治療開始から約10年の時点で有意に抑制されたことが、VADT試験の長期の追跡調査で確認された。米国退役軍人省(VA)アンアーバー健康管理システムのRodney A Hayward氏らが報告した。本試験の終了時の解析(追跡期間中央値5.6年)では、強化療法と標準治療で主要心血管イベントの改善効果に差はないとの結論が得られていた。本試験を含む4つの主要な血糖コントロールに関する大規模試験のうち、最も追跡期間の長いUKPDS試験では強化療法で心血管イベントの改善効果が示され、ACCORD試験でも最近、非致死的心血管イベントが改善されたとの報告(死亡率の上昇でベネフィットは消失)があるが、ADVANCE試験では心血管イベント、死亡とも改善されておらず、厳格な血糖コントロールの是非という最も重要な課題は未解決のままである。NEJM誌2015年6月4日号掲載の報告。
追跡期間中央値9.8年時の再解析
VADT試験は、退役軍人の2型糖尿病患者1,791例において、強化血糖降下療法と標準治療を比較する多施設共同無作為化対照比較試験(VA共同研究プログラムなどの助成による)。治療介入は2008年5月29日に終了し、その後は通常治療が行われている。
研究グループは、試験終了後も中央データベースを用いて参加者を追跡し、医療処置、入院、死亡の状況を確認した(完全コホート:参加者の92.4%[1,655例]の追跡データ)。また、多くの参加者が、年1回の調査と定期的なカルテの審査によるデータの収集に同意した(調査コホート:参加者の77.7%[1,391例]の追跡データ)。
主要評価項目は主要心血管イベント(心臓発作、脳卒中、うっ血性心不全の新規発症または増悪、虚血性壊疽による下肢切断、心血管関連死)の初回発生までの期間であり、副次評価項目は心血管死亡率および全死因死亡率であった。
ベースラインの平均年齢は完全コホートが60.5歳、調査コホートは61.1歳、男性が両コホートとも約97%で、平均罹病期間は11.5~12.0年、心血管イベント歴は40%強に認められた。追跡期間中央値は9.8年だった。
主要心血管イベントが17%減少、死亡率は改善せず
強化療法群と標準治療群の糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の差は、試験期間中は平均1.5%(中央値で、6.9 vs. 8.4%)であったが、試験終了後1年時には平均0.5%(中央値で、7.8 vs. 8.3%)に、3年時には0.2~0.3%にまで減少した。試験の介入期間および終了後の追跡期間のいずれにおいても、両群間に血圧や脂質値に差はなかった。
治療開始9.8年時に、強化療法群は標準治療群に比べ主要心血管イベントのリスクが有意に減少していた(ハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.70~0.99、p=0.04)。また、主要心血管イベントの絶対リスク減少は、1,000人年当たり8.6件であった。
心血管死亡率(HR:0.88、95%CI:0.64~1.20、p=0.42)および全死因死亡率(追跡期間中央値11.8年時、HR:1.05、95%CI:0.89~1.25、p=0.54)は、両群間に差を認めなかった。
著者は、「本試験を含む4つの主要な臨床試験には、患者の年齢や罹病期間、単剤/多剤、治療強度などに違いがあるが、残念ながらこれによって死亡率の違いを説明することはできない(ACCORD試験では強化療法で上昇、本試験は改善なし、UKPDS試験は改善)」としている。また、「この結果をレガシー効果のエビデンスを支持するものと考えるのは早計である。本試験では、HbA1c値が両群で完全に同じになったことはなく、試験終了後2年間は実質的な差が持続しており、この問いに答えるには統計学的パワーも十分でない」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)