正中開腹手術時の切開部の縫合では、創縁から縫合針の刺入部までの幅を狭くしたsmall bite法による連続縫合が、従来の縫合幅の広いlarge bite法よりも、瘢痕ヘルニアの予防に有効であることが、オランダ・エラスムス大学医療センターのEva B Deerenberg氏らが実施したSTITCH試験で示された。正中開腹手術の合併症として、切開部の瘢痕ヘルニアが患者の10~23%にみられ、特定のリスクを有する場合は38%に上るとされる。モノフィラメント縫合糸による連続縫合が、結節縫合に比べ瘢痕ヘルニアの発症を抑制することがメタ解析で示されているが、縫合幅については、スウェーデンの単施設での無作為化試験が1件あるのみで、small bite法による連続縫合で瘢痕ヘルニアが少なかったと報告されている。Lancet誌オンライン版2015年7月15日号掲載の報告。
待機的手術560例で瘢痕ヘルニアの発症を評価
STITCH試験は、正中開腹手術切開部の筋膜閉鎖におけるsmall bite法の有用性を、従来のlarge bite法と比較する多施設共同二重盲検無作為化対照比較試験。対象は、年齢18歳以上の待機的手術が予定されている患者であった。
被験者は、31mm縫合針にて縫合幅(創縁から左右の刺入部までの距離)5mm、縫合間隔(刺入部から次の同側刺入部までの距離)5mmで連続縫合を行う群(small bite群)または48mm縫合針にて縫合幅1cm、縫合間隔1cmで連続縫合を施行する群(large bite群)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、瘢痕ヘルニアの発症であった。
2009年10月20日~2012年3月12日の間に、オランダの10施設に560例が登録され、small bite群に276例(年齢中央値62歳、女性50%)、large bite群には284例(63歳、51%)が割り付けられた。フォローアップは2013年8月30日まで行われ、545例(97%、268例、277例)が解析の対象となった。
1年瘢痕ヘルニア発症率:13 vs. 21%、有害事象や疼痛は増加せず
手術の種類は、婦人科がsmall bite群15%、large bite群14%、上部消化管がそれぞれ27%、31%、下部消化管が51%、47%、血管が8%、7%であった。
平均切開長は両群とも22±5cmであった。縫い目の数はsmall bite群が45±12ヵ所、large bite群は25±10ヵ所(p<0.0001)、総縫合糸長はそれぞれ110±39cm、95±34cm(p<0.0001)であり、縫合糸長対切開長比は5.0±1.5、4.3±1.4(p<0.0001)、筋膜閉鎖に要した時間は14±6分、10±4分(p<0.0001)だった。
1年時の瘢痕ヘルニアの発症率は、small bite群が13%(35/268例)であり、large bite群の21%(57/277例)に比べ有意に低値であった(p=0.0220)(補正オッズ比[OR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.31~0.87、p=0.0131)。
術後合併症の発症率は両群とも45%であった。イレウス(small bite群:10%、large bite群:12%)、肺炎(13%、14%)、心イベント(9%、11%)、手術部位感染(21%、24%)の発症率に差はなく、重篤な有害事象である創離開(1%、1%)は少なく、入院期間(15±35日、14±24日)もほぼ同等であった。
また、両群間に疼痛スコア(視覚アナログスケール)の差はなく、1年時のQOL(SF-36、EQ-5D)もほぼ同等であった。一方、瘢痕ヘルニア発症例は非発症例に比べ、1年時のSF-36の全体的健康感スコアが有意に低く(p=0.0326)、EQ-5Dの「移動」に関する問題が有意に多かった(p=0.0318)。
著者は、「small bite法は、正中開腹手術における瘢痕ヘルニアの予防において従来のlarge bite法よりも有効で、疼痛や有害事象は増加しなかった」とまとめ、「これらの知見は、既報の唯一の無作為化試験とともに、small bite連続縫合による正中開腹手術の縫合法を支持するエビデンスであり、small bite法は標準的な縫合法と考えられる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)